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知らなかったこと
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『…あの娘、私がはっきり視えていましたね』
「あの子は視えるだけ?それとも、人間じゃなかったのか…」
『後者です。ただ、あの気配は人間だった人という表現が合っている気がします』
「人間だった、人…」
人間から人になる方法があると、風の噂で聞いたことがある。
それならシェリが人間ではないことにも頷けるが、だとすればケイトと名乗ったあの女性は…。
『彼女は人間ではありません。ただ、このあたりの妖というわけでもなさそうです』
「それじゃあ、あの人は一体…」
『そこまでは私にも分かりません』
「そうか…」
ただ、どうしても訊いておきたいことがある。
答えてもらえるかどうかは分からないが、それは明日にしよう。
「…瑠璃、そこで休んでて」
『あなたも休んでくださいね』
「うん。…ありがとう」
とにかく、シェリが虐待を受けているわけではないのならそれでいい。
それが真実であろうことに少し安心して目を閉じた。
──嗚呼、また嫌な夢だ。
『これがあなたを護ってくれるはずよ」
「でも、そんなことをしたら、」
『もう行きなさい。あの人たちに見つからないようにね」
彼女は優しい人なんだ。
誰にもまともに会話すらしてもらえなかった俺に、大切なことを教えてくれた。
どんな人よりもいい人なんだ。
「待って、お願いします。酷いことしないで…!」
やめてくれ。僕には、その人しかいないのに…その人は悪いことなんて何もしてないのに……
「あ…」
『起きましたか?随分魘されていたようですが…』
「ごめん、大丈夫だよ。おはよう」
なんとなく胸がざわついて、枕元に置いてあるお守りを握りしめる。
そうしていれば、あの人がいつでも側にいてくれる気がするから。
昼間はあまり出掛ける方ではないが、このままでは夕飯の材料が足りないので仕方なく買い物に出かける。
『お疲れ様です』
「なんでこんなに人が多いんだろう…」
長い間人混みにいると、そこに含まれる様々な感情に押し潰されそうになる。
夕陽が沈む頃ぼんやりしながら歩いていると、聞き覚えのある声がした。
『おい、おまえ。よくも俺様にぶつかったな!』
「わ、私、は…」
…間違いない、シェリだ。
「…こっちだ」
「え、あ、」
シェリの手を繋いでそのまま振りきろうとしたものの、相手もなかなか速い。
『おまえ、人間のくせに俺様が視えるのか?』
「…この子にわざとぶつかっただろう」
『何故そんなことが分かる?』
「君が着ているその服を汚すには、この子の身長じゃ足りないからだ」
汚れているのは大男の上着だが、シェリはとても小さな女の子だ。
…どれだけ頑張っても、そんな位置に汚れをつけられるはずがない。
『くそ、人間ごときが…!』
首を思い切り絞められ、だんだん意識が遠のいていく。
『八尋!』
「俺は平気、だから…瑠璃は逃げろ、シェリを、連れて…」
ここでやられてしまうなら俺だけでいい。
そんなことを考えていたとき、突如知り合いの声が聞こえた。
「…ねえ、君。そんなに偉そうにできるほど偉いの?」
「中津、先輩…?」
間違いなく、バイト先の先輩の声がする。
何か吹き飛んだ気がしたものの、それを確認できずに意識が途切れた。
「あの子は視えるだけ?それとも、人間じゃなかったのか…」
『後者です。ただ、あの気配は人間だった人という表現が合っている気がします』
「人間だった、人…」
人間から人になる方法があると、風の噂で聞いたことがある。
それならシェリが人間ではないことにも頷けるが、だとすればケイトと名乗ったあの女性は…。
『彼女は人間ではありません。ただ、このあたりの妖というわけでもなさそうです』
「それじゃあ、あの人は一体…」
『そこまでは私にも分かりません』
「そうか…」
ただ、どうしても訊いておきたいことがある。
答えてもらえるかどうかは分からないが、それは明日にしよう。
「…瑠璃、そこで休んでて」
『あなたも休んでくださいね』
「うん。…ありがとう」
とにかく、シェリが虐待を受けているわけではないのならそれでいい。
それが真実であろうことに少し安心して目を閉じた。
──嗚呼、また嫌な夢だ。
『これがあなたを護ってくれるはずよ」
「でも、そんなことをしたら、」
『もう行きなさい。あの人たちに見つからないようにね」
彼女は優しい人なんだ。
誰にもまともに会話すらしてもらえなかった俺に、大切なことを教えてくれた。
どんな人よりもいい人なんだ。
「待って、お願いします。酷いことしないで…!」
やめてくれ。僕には、その人しかいないのに…その人は悪いことなんて何もしてないのに……
「あ…」
『起きましたか?随分魘されていたようですが…』
「ごめん、大丈夫だよ。おはよう」
なんとなく胸がざわついて、枕元に置いてあるお守りを握りしめる。
そうしていれば、あの人がいつでも側にいてくれる気がするから。
昼間はあまり出掛ける方ではないが、このままでは夕飯の材料が足りないので仕方なく買い物に出かける。
『お疲れ様です』
「なんでこんなに人が多いんだろう…」
長い間人混みにいると、そこに含まれる様々な感情に押し潰されそうになる。
夕陽が沈む頃ぼんやりしながら歩いていると、聞き覚えのある声がした。
『おい、おまえ。よくも俺様にぶつかったな!』
「わ、私、は…」
…間違いない、シェリだ。
「…こっちだ」
「え、あ、」
シェリの手を繋いでそのまま振りきろうとしたものの、相手もなかなか速い。
『おまえ、人間のくせに俺様が視えるのか?』
「…この子にわざとぶつかっただろう」
『何故そんなことが分かる?』
「君が着ているその服を汚すには、この子の身長じゃ足りないからだ」
汚れているのは大男の上着だが、シェリはとても小さな女の子だ。
…どれだけ頑張っても、そんな位置に汚れをつけられるはずがない。
『くそ、人間ごときが…!』
首を思い切り絞められ、だんだん意識が遠のいていく。
『八尋!』
「俺は平気、だから…瑠璃は逃げろ、シェリを、連れて…」
ここでやられてしまうなら俺だけでいい。
そんなことを考えていたとき、突如知り合いの声が聞こえた。
「…ねえ、君。そんなに偉そうにできるほど偉いの?」
「中津、先輩…?」
間違いなく、バイト先の先輩の声がする。
何か吹き飛んだ気がしたものの、それを確認できずに意識が途切れた。
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