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スノーラビット
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『何を作っているんですか?』
「雪うさぎだよ。ちょっと時間があったからやってみたくなったんだ」
あの日以来、中津先輩とは何度も会っているものの特に変わりない。
それは寧ろありがたかったが、なんとなく避けてしまっている。
『本当に器用なんですね』
「…そんなに褒められるような出来じゃないよ」
人よりずっとできることが少ない。
こんなときどうやって遊ぶのかさえ、俺はまともに知らないのだ。
手先だって器用な方ではない。…比較対象さえ分からないので、ないと思うというのが正しいのか。
「ただ、独りじゃ寂しいだろうから今からもう1匹作るつもり」
『まず部屋で温まってからでも遅くないのでは?そのままでは手が凍りそうですよ』
「…そうしようかな」
一旦部屋に戻ると、途端に外の寒さを実感する。
『蜜柑をください』
「そろそろ食べ頃だろうし…ちょっと待ってて」
ひとり用のこたつ机に足をつっこみながら椅子に腰掛けると、瑠璃は少し不思議そうな顔をした。
『いつも思うのですが、それはもはや炬燵とは呼べないのではありませんか?』
「…どうだろう。独りで暮らしている頃からずっと使っているから、俺にとってはこれが炬燵なんだ。
囲む相手がいるわけでもないし、万が一引っ越しになっても運びやすいだろうから」
『炬燵というのはこういったものなのでは?』
「それが一般的なやつだろうね」
床に座って、みんなでわいわいしながら入るもの…それが瑠璃が言う炬燵だ。
だが、それは俺が手に入れられないものだった。
…値段的にも、生きていくうえでも、どうしたって必要ないものや手に入らないものはある。
「はい、蜜柑」
『ありがとうございます。そういえば、カーペット換えたんですか?』
「よく分かったね」
ふとベランダに目をやった瞬間、驚いたことがある。
「あのうさぎ、さっきまであんなに遠かった?」
『先程の雪うさぎですか?それならあのプランターの近くにありましたよ』
「風で動いた、なんてことはないだろうし…」
まさかと思った。そんなこと、あるはずがない。
「さ、最近の雪うさぎは作ったら動くんだな…。前はそんなことなかったのに」
『どのくらい前の話ですか?』
「小さい頃、ある人と一緒に作ったんだ。そのときはあんなふうに跳ねたりしなかった」
折角誤魔化そうとしたのに、今の一言で墓穴を掘ったことに気づく。
しばらく瑠璃と目をあわせていると、雪うさぎははっとしたように動かなくなってしまった。
『…話しませんでしたね』
「うさぎだからなのか、それとも力が弱いから?」
『どちらにせよ、厄介なことにならないことを祈ります』
「多分大丈夫だとは思うけど、どうなるかな…」
俺か作った雪うさぎに何かが宿ったのか、或いは無意識に何かを創り出してしまったのかはまだ分からない。
ただ、危なくないようならこのまま跳ねる雪うさぎを見守ろう。
「雪うさぎだよ。ちょっと時間があったからやってみたくなったんだ」
あの日以来、中津先輩とは何度も会っているものの特に変わりない。
それは寧ろありがたかったが、なんとなく避けてしまっている。
『本当に器用なんですね』
「…そんなに褒められるような出来じゃないよ」
人よりずっとできることが少ない。
こんなときどうやって遊ぶのかさえ、俺はまともに知らないのだ。
手先だって器用な方ではない。…比較対象さえ分からないので、ないと思うというのが正しいのか。
「ただ、独りじゃ寂しいだろうから今からもう1匹作るつもり」
『まず部屋で温まってからでも遅くないのでは?そのままでは手が凍りそうですよ』
「…そうしようかな」
一旦部屋に戻ると、途端に外の寒さを実感する。
『蜜柑をください』
「そろそろ食べ頃だろうし…ちょっと待ってて」
ひとり用のこたつ机に足をつっこみながら椅子に腰掛けると、瑠璃は少し不思議そうな顔をした。
『いつも思うのですが、それはもはや炬燵とは呼べないのではありませんか?』
「…どうだろう。独りで暮らしている頃からずっと使っているから、俺にとってはこれが炬燵なんだ。
囲む相手がいるわけでもないし、万が一引っ越しになっても運びやすいだろうから」
『炬燵というのはこういったものなのでは?』
「それが一般的なやつだろうね」
床に座って、みんなでわいわいしながら入るもの…それが瑠璃が言う炬燵だ。
だが、それは俺が手に入れられないものだった。
…値段的にも、生きていくうえでも、どうしたって必要ないものや手に入らないものはある。
「はい、蜜柑」
『ありがとうございます。そういえば、カーペット換えたんですか?』
「よく分かったね」
ふとベランダに目をやった瞬間、驚いたことがある。
「あのうさぎ、さっきまであんなに遠かった?」
『先程の雪うさぎですか?それならあのプランターの近くにありましたよ』
「風で動いた、なんてことはないだろうし…」
まさかと思った。そんなこと、あるはずがない。
「さ、最近の雪うさぎは作ったら動くんだな…。前はそんなことなかったのに」
『どのくらい前の話ですか?』
「小さい頃、ある人と一緒に作ったんだ。そのときはあんなふうに跳ねたりしなかった」
折角誤魔化そうとしたのに、今の一言で墓穴を掘ったことに気づく。
しばらく瑠璃と目をあわせていると、雪うさぎははっとしたように動かなくなってしまった。
『…話しませんでしたね』
「うさぎだからなのか、それとも力が弱いから?」
『どちらにせよ、厄介なことにならないことを祈ります』
「多分大丈夫だとは思うけど、どうなるかな…」
俺か作った雪うさぎに何かが宿ったのか、或いは無意識に何かを創り出してしまったのかはまだ分からない。
ただ、危なくないようならこのまま跳ねる雪うさぎを見守ろう。
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