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スノーブラザーズ
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「…君たちは誰?」
部屋に招き入れ、うさ耳の少年とバケツ少女に尋ねる。
『僕は、あなたが作ったうさぎです。名前は、宵です』
『私は雪だるま。名前…名前?』
「分かった。多分宵は妖で、そっちの君は少し記憶が飛んでいるのかな…。俺は八尋。君たちは温かい場所は平気?」
『僕は、この姿でいるときならば問題ありません』
『私は分からない。…お兄ちゃん、どう思う?』
『僕には君のことは分からない。ただ、気配的には大丈夫そうだ』
ふたりの会話を聞いていると本当の兄妹のように見える。
だが、宵が知らないというのなら初対面に近い状態なのだろう。
「掃除をしてくれるのはありがたいけど、今日はもうやめておいた方がいい。
これからもっと冷える予定なんだ。万が一風邪をひいてしまったら大変なことになる」
『あの…僕たちは、ここにいてもいいんでしょうか?』
「俺が作ってしまったものだし、君たちが嫌じゃないなら構わないよ」
『ありがとうございます』
宵の達観した話し方に少し驚きつつ、こういうこともあるのかと状況を整理するのでせいいっぱいな自分もいる。
「どう思う?」
『今のところ不審な点はありませんし、八尋が構わないなら受け入れても大丈夫でしょう。
ただ、もしかすると兄の方は何か悩みがあるのかもしれません』
キッチンで飲み物を準備しながら、ふたりでこそこそ話し合う。
できれば信用したいところではあるが、相手をよく知らないことには何も始まらない。
「お待たせ。これなら飲めるかな?」
『いただきます。…ここお茶、体が温まります』
「気に入ってもらえたならよかった」
『お兄ちゃん、色々な話をしてくれたの。不思議な森に輝く海、それからお星様の話!』
「そうか。よかったね」
恐る恐る少女の頭に触れてみると、とても冷たく感じた。
「…雪」
『んん?』
「君の名前、雪っていうのはどうかな?名前がないと呼ぶときに不便だから、仮のものとして」
『ゆき…可愛い!』
「気に入ってくれたなら決まりだね」
『よかったね』
『うん!』
楽しそうに笑う姿を見て少し安心する。
このふたりは本当に仲がいいようだ。
もしも俺に兄弟というものがいれば、こんな感じだったのだろうか。
「ふたりは本当に知り合いじゃないの?なんだか兄妹みたいに見えるんだけど…」
『違います。兄妹ではありません』
宵の言葉にはどこか陰があるような気がしたが、そうかと答えるに留めた。
「ふたりとも、本当に体は平気?」
『僕は大丈夫です。ご心配をおかけしてしまい申し訳ありません』
『私も平気。体が軽くて楽しい』
「それならよかった」
少し離れた場所から観察している瑠璃は、一体どんなことを感じ取ったのだろうか。
「ふたりとも、どうやって寝るの?」
『外です』
『お外!』
ふたり揃ってベランダへの扉を開け、本来の姿に戻る。
目を閉じているのは確認できるものの、結局悩み事があるかどうかを聞き出すことはできなかった。
まだ時間はあるはずだから、また明日話してみることにしよう…カップを片づけながらそう誓う。
瑠璃も特に何も感じなかったのか、そのまま休みはじめた。
「…おやすみ、3人とも」
取り敢えず横になってみたものの、今夜は眠れそうにない。
部屋に招き入れ、うさ耳の少年とバケツ少女に尋ねる。
『僕は、あなたが作ったうさぎです。名前は、宵です』
『私は雪だるま。名前…名前?』
「分かった。多分宵は妖で、そっちの君は少し記憶が飛んでいるのかな…。俺は八尋。君たちは温かい場所は平気?」
『僕は、この姿でいるときならば問題ありません』
『私は分からない。…お兄ちゃん、どう思う?』
『僕には君のことは分からない。ただ、気配的には大丈夫そうだ』
ふたりの会話を聞いていると本当の兄妹のように見える。
だが、宵が知らないというのなら初対面に近い状態なのだろう。
「掃除をしてくれるのはありがたいけど、今日はもうやめておいた方がいい。
これからもっと冷える予定なんだ。万が一風邪をひいてしまったら大変なことになる」
『あの…僕たちは、ここにいてもいいんでしょうか?』
「俺が作ってしまったものだし、君たちが嫌じゃないなら構わないよ」
『ありがとうございます』
宵の達観した話し方に少し驚きつつ、こういうこともあるのかと状況を整理するのでせいいっぱいな自分もいる。
「どう思う?」
『今のところ不審な点はありませんし、八尋が構わないなら受け入れても大丈夫でしょう。
ただ、もしかすると兄の方は何か悩みがあるのかもしれません』
キッチンで飲み物を準備しながら、ふたりでこそこそ話し合う。
できれば信用したいところではあるが、相手をよく知らないことには何も始まらない。
「お待たせ。これなら飲めるかな?」
『いただきます。…ここお茶、体が温まります』
「気に入ってもらえたならよかった」
『お兄ちゃん、色々な話をしてくれたの。不思議な森に輝く海、それからお星様の話!』
「そうか。よかったね」
恐る恐る少女の頭に触れてみると、とても冷たく感じた。
「…雪」
『んん?』
「君の名前、雪っていうのはどうかな?名前がないと呼ぶときに不便だから、仮のものとして」
『ゆき…可愛い!』
「気に入ってくれたなら決まりだね」
『よかったね』
『うん!』
楽しそうに笑う姿を見て少し安心する。
このふたりは本当に仲がいいようだ。
もしも俺に兄弟というものがいれば、こんな感じだったのだろうか。
「ふたりは本当に知り合いじゃないの?なんだか兄妹みたいに見えるんだけど…」
『違います。兄妹ではありません』
宵の言葉にはどこか陰があるような気がしたが、そうかと答えるに留めた。
「ふたりとも、本当に体は平気?」
『僕は大丈夫です。ご心配をおかけしてしまい申し訳ありません』
『私も平気。体が軽くて楽しい』
「それならよかった」
少し離れた場所から観察している瑠璃は、一体どんなことを感じ取ったのだろうか。
「ふたりとも、どうやって寝るの?」
『外です』
『お外!』
ふたり揃ってベランダへの扉を開け、本来の姿に戻る。
目を閉じているのは確認できるものの、結局悩み事があるかどうかを聞き出すことはできなかった。
まだ時間はあるはずだから、また明日話してみることにしよう…カップを片づけながらそう誓う。
瑠璃も特に何も感じなかったのか、そのまま休みはじめた。
「…おやすみ、3人とも」
取り敢えず横になってみたものの、今夜は眠れそうにない。
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