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スノーダスト
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なかなか起きてこないふたりが来てしまう前に、どうしても話を聞いておきたい。
宵に座って待っていてほしいと話し、一旦その場を離れた。
「…瑠璃、しばらくその子を頼む」
『分かりました』
やはりたぬき寝入りだったかと思いつつ、即答してくれた彼女には感謝しかない。
「彼女は明っていう名前なんだね」
『明とふたり、ただ花畑に住んでいたんだ。僕たちは何も悪いことなんてしていない。人間は嫌いだけど、襲ったこともない。
寧ろ関わりたくなかったから、ただふたりで一緒にいただけなんだ。それなのに…』
「祓い屋に襲われた?」
宵は黙ったまま小さく首を縦にふる。それから彼は話を続けた。
『僕はなんとか力を抑えられたけど、怪我をした僕を見た明は暴走した。
…周囲の花は枯れ、荒廃してしまったんだ。ただでさえあいつらに焼かれて、ほとんどの花が散ってしまっていたのに…』
「明が暴走したのを止めたのは君なんだね」
『…もっと早く止められれば、記憶を失うこともなかったかもしれない。僕がもっと強ければよかったのに』
突然身勝手な人間たちによって平穏が破壊される…その行為には覚えがあった。
ただふたりで過ごせればよかったという祈りも、一緒にいただけで勝手に引き裂かれた哀しみも、あの人間たちには伝わらない。
「大変な思いをしたんだね」
『それで、明の記憶を取り戻す方法を探してほしい。この器が溶けるまででいいから、お願いします』
そんな事情を聞いて、やる前からそんなものは無理だと突っぱねるようなことはできない。
「俺は本当に弱いんだ。力もなければ知識も少ないから、絶対になんとかするとは言えない。それでもいい?」
『お願いします』
「分かった。…瑠璃、盗み聞きしてるなら手伝って」
扉に向かって話しかけると、渋々といった様子で隙間から小鳥が出てくる。
『どうして分かったんですか?』
「気配でなんとなく、かな」
『記憶を取り戻す為の花なら知っています。崖の上に2輪だけ咲く、真っ白な勿忘草があるそうです』
「それを探してみるしかないか…。よし、そうと決まれば早速行ってみよう」
瑠璃は視線を宵の方に向け、首を傾げたまま真っ直ぐ言葉を投げかける。
『…彼女にはどう説明するつもりですか?』
『それは、記憶を取り戻せそうになったら考えようと思います』
今回の場合、記憶が戻ることがいいこととは限らない。
万が一自分が暴走したことを思い出せば、精神を蝕まれてしまう可能性さえある。
だが、明も…雪もそれを望むなら絶対に叶えたい。
雪うさぎが溶けるまであとどれくらいあるか分からないが、一先ず現地へ行ってみよう。
「…先に食事にしようか。流石に雪を起こした方がよさそうだし」
ふたりが頷いたのを確認し、ベッドに起こしに向かう。
相変わらずばけつを頭にちょこんとかぶったままの彼女の表情は、本当に穏やかなものだった。
宵に座って待っていてほしいと話し、一旦その場を離れた。
「…瑠璃、しばらくその子を頼む」
『分かりました』
やはりたぬき寝入りだったかと思いつつ、即答してくれた彼女には感謝しかない。
「彼女は明っていう名前なんだね」
『明とふたり、ただ花畑に住んでいたんだ。僕たちは何も悪いことなんてしていない。人間は嫌いだけど、襲ったこともない。
寧ろ関わりたくなかったから、ただふたりで一緒にいただけなんだ。それなのに…』
「祓い屋に襲われた?」
宵は黙ったまま小さく首を縦にふる。それから彼は話を続けた。
『僕はなんとか力を抑えられたけど、怪我をした僕を見た明は暴走した。
…周囲の花は枯れ、荒廃してしまったんだ。ただでさえあいつらに焼かれて、ほとんどの花が散ってしまっていたのに…』
「明が暴走したのを止めたのは君なんだね」
『…もっと早く止められれば、記憶を失うこともなかったかもしれない。僕がもっと強ければよかったのに』
突然身勝手な人間たちによって平穏が破壊される…その行為には覚えがあった。
ただふたりで過ごせればよかったという祈りも、一緒にいただけで勝手に引き裂かれた哀しみも、あの人間たちには伝わらない。
「大変な思いをしたんだね」
『それで、明の記憶を取り戻す方法を探してほしい。この器が溶けるまででいいから、お願いします』
そんな事情を聞いて、やる前からそんなものは無理だと突っぱねるようなことはできない。
「俺は本当に弱いんだ。力もなければ知識も少ないから、絶対になんとかするとは言えない。それでもいい?」
『お願いします』
「分かった。…瑠璃、盗み聞きしてるなら手伝って」
扉に向かって話しかけると、渋々といった様子で隙間から小鳥が出てくる。
『どうして分かったんですか?』
「気配でなんとなく、かな」
『記憶を取り戻す為の花なら知っています。崖の上に2輪だけ咲く、真っ白な勿忘草があるそうです』
「それを探してみるしかないか…。よし、そうと決まれば早速行ってみよう」
瑠璃は視線を宵の方に向け、首を傾げたまま真っ直ぐ言葉を投げかける。
『…彼女にはどう説明するつもりですか?』
『それは、記憶を取り戻せそうになったら考えようと思います』
今回の場合、記憶が戻ることがいいこととは限らない。
万が一自分が暴走したことを思い出せば、精神を蝕まれてしまう可能性さえある。
だが、明も…雪もそれを望むなら絶対に叶えたい。
雪うさぎが溶けるまであとどれくらいあるか分からないが、一先ず現地へ行ってみよう。
「…先に食事にしようか。流石に雪を起こした方がよさそうだし」
ふたりが頷いたのを確認し、ベッドに起こしに向かう。
相変わらずばけつを頭にちょこんとかぶったままの彼女の表情は、本当に穏やかなものだった。
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