カルム

黒蝶

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晴天の

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『くだらない人間が来るのは嫌いだけど、八尋ならいつでも来てほしいかな。
こうやって誰かと話すのは楽しいし、なんだか心が温かい。そんなもの、僕にはないはずなんだけどね』
「…真田にはきっと、正春さんからもらった心があるんだと思う。
それだけ優しい人からの想いなら、君にうつってもおかしくないと思うんだ」
『…面白いことを言うね。だから僕はここで、彼の孤独の象徴として残ったのかもしれない』
「どういうこと?」
そう訊くと、真田は満面の笑みでゆっくり答えた。
『もしそうだとしたら、僕はあの子の寂しさも悲しみも全部見てきているから…明るい感情より暗い感情の方が多いと思うんだ。
それに、僕は誰かに彼という存在を覚えていてほしいと考えていたからそれが影響したのかもしれない』
「君の優しい願いが強く形になった世界がここなのかもしれない」
『…成程、だからここは大抵いつも雨が降ってるんだ』
「雨に思い入れがあるのか?」
真田の表情から怒りはほとんど消えている。
もう少し話していたかったが、そろそろ時間かもしれない。
『あの子は雨の日に動かなくなった。だけど、生きている間は雨音が好きだったんだ。
窓の外を見ては、来年こそここから出て外の世界を見てみたいって話してた』
「そうか…」
もしかするとそれは、正春さんの孤独を表していたのかもしれない。
そんなことを考えていると、空はいつの間にか晴れ渡り、虹が浮かんでいた。
『わあ、すごく綺麗…!こんなの初めてだ』
「そうなのか?」
『うん。少なくとも、ここでは見たことがなかった』
がちゃりと何かが開く音がして、外との境目が視えるようになった。
『そうだ、八尋』
「どうした?」
『最後にあの鍵を受け取ってほしいんだ。探してはいたけど、あれはスペアだから』
「この部屋に入る為のか?」
『うん。看護師さんから取り返してくるから、少しだけ待っててくれないかな?』
「俺は構わないけど、大事なものなんじゃないのか?」
『いいんだ。今まで僕の友だちはあの子だけで、それは永遠に変わらないと思ってた。
だけど、そうじゃなかったんだって記念に持っててほしい』
「分かった。そういうことならありがたくいただくよ」
彼は優しい目をこちらに向けていて、気づいたときには待合室の椅子に座っていた。
『お待たせ』
「ありがとう。大切にするよ」
しゃらしゃらと音がする鍵を握りしめ、真田に手をふりながら約束する。
…時間を作ってまた会いに来ると。
『最近あなたには友人が沢山できますね』
「ちょっと拗ねてる?」
『そんなことはありません』
「素直じゃないな…」
いじけたように話す瑠璃を少し笑いながら、そのまま診察を待つ。
病院という場所は相変わらず苦手だが、今日は少しだけ心が軽い。
空には大きな虹がかかっていて、真田も同じ景色を見ているかもしれないと感じた。
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