カルム

黒蝶

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メイド

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そう話しかけると、メイドはただ黙った。
【静養中の九条光さん(17)が一部白骨化した状態で見つかり…】
【当時屋敷に他の人はおらず、ひとりで生活していたと思われる】
そんな記事から読み取れることはひとつしかない。
「ひとりしか死ななかったんじゃない。お嬢様以外、あなたのことを認識できなかったんじゃないですか?」
メイドは突然笑い出し、こちらをじっと見つめた。
『よく分かったわね。確かに私は人間じゃない。だからこそ、二度と関わらないようにしようと決めていたの。だけどあの方は…お嬢様は私を蔑まなかった。
私を見ても、あなたは私の仲間だろうって何度も何度も訊いてきた。…怒りで我を忘れそうになっても、このままでいられるのはその言葉のおかげ』
「お嬢様のこと、大切に想ってたんですね」
『彼女、私を視ても怖がらないの。人間たちなんて勝手に入ってきては悲鳴をあげて逃げていくくせに、死期が近づいて私を視ても、友達で家族で同士だと話していたわ』
他の人間たちがお嬢様だけを置いて関わらなくなったのはそれがあるからかもしれない。
視えない人間からすれば、たしかに恐怖心でいっぱいになるだろう。
だが、彼女にそんな話をしたくない。
「…お嬢様、泣いていませんでしたか?」
『彼女はよく泣いていたわ』
「そうじゃなくて…今、この屋敷でってことです。人間が嫌いなあなたがここへの扉を開けるとは思えない。
それに、すすり泣く声が奥の部屋から聞こえてきたんです。無視したくない」
誰かが困っているのなら、それを無視して生活するなんて俺はしたくない。
メイドは俺を凝視して、何を思ったのかすました顔でこちらを見ている。
しばらく沈黙が続いた後、彼女は小さく呟いた。
『あなた、あの人間たちとは違うみたいね』
「変わってる、とは周りから思われているみたいです。それ以外はよく分からないけど…」
『友だちはいる?』
「人間の、という意味なら…いません。だけど、俺はずっと色々なものを視てきたから、寂しいとも思いません」
『…そう。あなた強いのね』
「そんなことないと思います。いつも周りに助けてもらってばかりで…」
しばらく話していると、彼女の表情が一気に暗くなる。
『泣き声が聞こえたと言ってたわね。…奥の扉は開かなかったはずなの。
だけど、あなたの話を信じるわ。もしお嬢様が困っていたら連絡する。だから、力になってあげて』
「善処します」
俺は他の人たちよりずっと弱い。
ただ、だからといって目を背けることなんてできなかった。
『この前は突き飛ばしてごめんなさい』
「あなたはこの屋敷を護りたかったんでしょう?俺の方こそ、勝手に入ってすみませんでした」
『今日は帰って』
「分かりました」
一礼してその部屋を後にする。
あんなに遠かったはずの玄関には、30秒ほどで辿り着いた。
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