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遭遇
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「それじゃあ俺は仕事に行ってくるよ」
『今夜もおもりですか…』
「ごめん。だけど小鞠のことは瑠璃にしか頼めない」
『それも分かってはいるんですけどね…。何かあればすぐ連絡してください』
「ありがとう。いってきます」
できるだけ簡潔に告げて、手をふる小鞠と小さく息をひとつ吐いた瑠璃に笑いかける。
そうして俺はいつもどおり仕事先に出かけた。
「こんばんは」
「あ、八尋君!怪我の具合はどう?」
「おかげさまで、もうほとんどよくなりました。ありがとうございます」
中津先輩に声をかけられて、いつものように答える。
時々古傷が痛むが、それは彼が言っている怪我ではないので何も言わない。
「…今日は掃除してもらっていい?」
「いいんですか?」
「重いものを持つのは怪我に響く」
「ありがとうございます」
山岸先輩にも助けられたけど、ただ一言お礼を言うことしかできない。
「僕はそっちの方がいいと思うけど、今日は左眼隠してないんだね」
「あ…すみません」
思わず反射的に隠してしまう俺を見て、中津先輩はただ苦笑した。
「やっぱり隠さない方がいいと思うんだけどな…」
「このまま人前に立つのはちょっと抵抗があるので…すみません、失礼します」
掃除道具一式を持ち、その場を離れる。
お客さんはまだいなかったので、ひたすら掃除に没頭した。
前髪が乱れていないか不安になりながら隅の方で作業していると、聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「すみません、何かおすすめの本はありませんか?」
その声には聞き覚えがあって、顔を隠しながらレジの方を確認する。
あれから10年以上経つというのに、あの男の声は変わっていない。
白いフードに黒い本…顔は見えないから赤い眼鏡をかけているかは分からなかったものの、間違いなくあの男だ。
俺のことなんて向こうは覚えていないだろうけど、俺にとってあの男はただの殺人鬼と変わりない。
「今の時期、景色を楽しみながら読みたいのであればこちらが、長篇の場合はこちらがおすすめになります」
「それでは景色を楽しむ方にします」
「ありがとうございます」
顔を見られたくないし、一刻も早く男が立ち去ってくれることを祈る。
大切な人が目の前で散っていくのをただ見ていることしかできなかった無力な自分と、あの男が放った言葉を思い出す。
【庇うのなら君もあの化け物と同じだ。あれのどこがよかったのか知らないけど、あれはただの悪霊だよ】
あの人は最期まで弱い僕を護ってくれた。
今だって、あの人から受け取ったお守りのおかげで無事暮らせている。
それをあいつは化け物だと言って笑った。
僕のことだけなら許せたけど、あんなに優しくしてくれた人のことを嘲笑ったのだ。
できるだけ音をたてないように気をつけながら、早足でスタッフルームに入る。
左眼が疼くように痛んで、その場に座りこんだ。
『今夜もおもりですか…』
「ごめん。だけど小鞠のことは瑠璃にしか頼めない」
『それも分かってはいるんですけどね…。何かあればすぐ連絡してください』
「ありがとう。いってきます」
できるだけ簡潔に告げて、手をふる小鞠と小さく息をひとつ吐いた瑠璃に笑いかける。
そうして俺はいつもどおり仕事先に出かけた。
「こんばんは」
「あ、八尋君!怪我の具合はどう?」
「おかげさまで、もうほとんどよくなりました。ありがとうございます」
中津先輩に声をかけられて、いつものように答える。
時々古傷が痛むが、それは彼が言っている怪我ではないので何も言わない。
「…今日は掃除してもらっていい?」
「いいんですか?」
「重いものを持つのは怪我に響く」
「ありがとうございます」
山岸先輩にも助けられたけど、ただ一言お礼を言うことしかできない。
「僕はそっちの方がいいと思うけど、今日は左眼隠してないんだね」
「あ…すみません」
思わず反射的に隠してしまう俺を見て、中津先輩はただ苦笑した。
「やっぱり隠さない方がいいと思うんだけどな…」
「このまま人前に立つのはちょっと抵抗があるので…すみません、失礼します」
掃除道具一式を持ち、その場を離れる。
お客さんはまだいなかったので、ひたすら掃除に没頭した。
前髪が乱れていないか不安になりながら隅の方で作業していると、聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「すみません、何かおすすめの本はありませんか?」
その声には聞き覚えがあって、顔を隠しながらレジの方を確認する。
あれから10年以上経つというのに、あの男の声は変わっていない。
白いフードに黒い本…顔は見えないから赤い眼鏡をかけているかは分からなかったものの、間違いなくあの男だ。
俺のことなんて向こうは覚えていないだろうけど、俺にとってあの男はただの殺人鬼と変わりない。
「今の時期、景色を楽しみながら読みたいのであればこちらが、長篇の場合はこちらがおすすめになります」
「それでは景色を楽しむ方にします」
「ありがとうございます」
顔を見られたくないし、一刻も早く男が立ち去ってくれることを祈る。
大切な人が目の前で散っていくのをただ見ていることしかできなかった無力な自分と、あの男が放った言葉を思い出す。
【庇うのなら君もあの化け物と同じだ。あれのどこがよかったのか知らないけど、あれはただの悪霊だよ】
あの人は最期まで弱い僕を護ってくれた。
今だって、あの人から受け取ったお守りのおかげで無事暮らせている。
それをあいつは化け物だと言って笑った。
僕のことだけなら許せたけど、あんなに優しくしてくれた人のことを嘲笑ったのだ。
できるだけ音をたてないように気をつけながら、早足でスタッフルームに入る。
左眼が疼くように痛んで、その場に座りこんだ。
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