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私怨
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あの日、俺たちは一旦煙を追うのをやめた。
深追いしてどうにもならなくなったら終わりだと判断したからだ。
あれから煙は現れていないので、余計に不気味さを感じる。
『遊ぶ』
「何をやろうか」
『ぬり絵』
「分かった。そうしよう」
嘘みたいに平穏な日々で、逆に不安になる。
もしこれが壊されようとしたら、俺は落ち着いて対処できるだろうか。
『何を不安がっているんですか?』
「…ごめん」
『別に謝る必要はありません。ただ、あの煙に関して心配する必要はありません。
また現れた場合は別ですが、それまでは深く考えず生活しましょう。ずっと緊張していると疲れますよ』
「そうだな。ごめん」
瑠璃がいて小鞠がいて…本屋で色々な人たちと少し関わって。
俺にとっての温かい世界はそれでできている。
『それより、仕事に遅れますよ』
「そろそろ準備しないと間に合わなくなるな。…小鞠、続きはまた今度にしよう。
俺が仕事してる間にやってたこと、今日も話して聞かせてくれ」
『いってらっしゃい』
「いってきます」
ぱっと手を伸ばしてこちらへふってくれる小鞠と楽しそうに翼をはためかせている瑠璃に見送られながら、今日も仕事へと向かう。
流石に連続で休んでしまっているので、今日は行かないと迷惑になる。
「お疲れ様です」
「今夜は来たんだ」
「山岸先輩、先日はすみませんでした」
「別に。あれは僕がやりたいようにやっただけだから」
「あれ?もしかして、柊照れてる?」
「照れてない」
「お疲れ様です、中津先輩」
「お疲れ!」
ふたりの先輩に囲まれて、本当に仕事が楽しい。
…そう、こんなことにならなければ。
「すみません、また本を選んでほしいのですが…」
「今夜はどのような本をお探しですか?」
「煙が出てくる話ってありますか?」
「そうですね…絵本ならあるかもしれません」
白いフードに黒い本を持った男…やはり赤い眼鏡かは確認できなかったものの、あの声を忘れたことはない。
【八尋、私ね…あなたと話す時間が1番楽しいの。あなたがいてくれるだけで、明日も生きていけるわ】
僕からあの笑顔を奪った人間が、どうしてまたここに立っている?
…そんなことを考えてしまうのは、心が醜いからだろうか。
「そういえば知ってる?最近紫煙を見た人がいるんだって」
「確か見ただけで毒される煙だっけ?怖いね…」
「それが、願掛けに行って帰ってこなかった人がいるんだって。噂を知らなかったのかな…」
あの人のことを消した奴が現れて、おかしな噂も広がりはじめて…怪しいとしか言いようがない。
やっぱり次煙が現れたら調べるしかないだろう。
「…大丈夫?顔色悪いよ」
「平気です。すみません、心配をかけてしまって…」
「また来ているのか。もうすぐいなくなると思うから、そのまま待ってて」
これ以上山岸先輩に迷惑をかけられない。
ただ、あの男を見るとどうしても怒りと恐怖で震えが止まらなくなってしまう。
なんとか小刻みにがたがたと揺れる手を隠し、平静を装った。
…他のお客さんがしている噂話を聞きながら。
深追いしてどうにもならなくなったら終わりだと判断したからだ。
あれから煙は現れていないので、余計に不気味さを感じる。
『遊ぶ』
「何をやろうか」
『ぬり絵』
「分かった。そうしよう」
嘘みたいに平穏な日々で、逆に不安になる。
もしこれが壊されようとしたら、俺は落ち着いて対処できるだろうか。
『何を不安がっているんですか?』
「…ごめん」
『別に謝る必要はありません。ただ、あの煙に関して心配する必要はありません。
また現れた場合は別ですが、それまでは深く考えず生活しましょう。ずっと緊張していると疲れますよ』
「そうだな。ごめん」
瑠璃がいて小鞠がいて…本屋で色々な人たちと少し関わって。
俺にとっての温かい世界はそれでできている。
『それより、仕事に遅れますよ』
「そろそろ準備しないと間に合わなくなるな。…小鞠、続きはまた今度にしよう。
俺が仕事してる間にやってたこと、今日も話して聞かせてくれ」
『いってらっしゃい』
「いってきます」
ぱっと手を伸ばしてこちらへふってくれる小鞠と楽しそうに翼をはためかせている瑠璃に見送られながら、今日も仕事へと向かう。
流石に連続で休んでしまっているので、今日は行かないと迷惑になる。
「お疲れ様です」
「今夜は来たんだ」
「山岸先輩、先日はすみませんでした」
「別に。あれは僕がやりたいようにやっただけだから」
「あれ?もしかして、柊照れてる?」
「照れてない」
「お疲れ様です、中津先輩」
「お疲れ!」
ふたりの先輩に囲まれて、本当に仕事が楽しい。
…そう、こんなことにならなければ。
「すみません、また本を選んでほしいのですが…」
「今夜はどのような本をお探しですか?」
「煙が出てくる話ってありますか?」
「そうですね…絵本ならあるかもしれません」
白いフードに黒い本を持った男…やはり赤い眼鏡かは確認できなかったものの、あの声を忘れたことはない。
【八尋、私ね…あなたと話す時間が1番楽しいの。あなたがいてくれるだけで、明日も生きていけるわ】
僕からあの笑顔を奪った人間が、どうしてまたここに立っている?
…そんなことを考えてしまうのは、心が醜いからだろうか。
「そういえば知ってる?最近紫煙を見た人がいるんだって」
「確か見ただけで毒される煙だっけ?怖いね…」
「それが、願掛けに行って帰ってこなかった人がいるんだって。噂を知らなかったのかな…」
あの人のことを消した奴が現れて、おかしな噂も広がりはじめて…怪しいとしか言いようがない。
やっぱり次煙が現れたら調べるしかないだろう。
「…大丈夫?顔色悪いよ」
「平気です。すみません、心配をかけてしまって…」
「また来ているのか。もうすぐいなくなると思うから、そのまま待ってて」
これ以上山岸先輩に迷惑をかけられない。
ただ、あの男を見るとどうしても怒りと恐怖で震えが止まらなくなってしまう。
なんとか小刻みにがたがたと揺れる手を隠し、平静を装った。
…他のお客さんがしている噂話を聞きながら。
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