カルム

黒蝶

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何がおこったのか分からず首を傾げていると、耳の側で声がした。
「やっぱり首をつっこんでいたんだね」
「山岸先輩?」
「…少し黙って掴まってて」
いきなり速度があがったかと思うと、視界に時折紫煙がうつりこむ。
『随分速いんですね』
「それを調べに来たんだけど、まさか君たちがいるとは思ってなかったよ。…まあ、いずれ調査には来るだろうと予想はしていたけど」
「すみません」
「別に謝る必要はない。ただ、どうしてあんなものが現れはじめたのかはちゃんと知りたいと思っている」
そんな話をしている間も、山岸先輩は俺を抱えたまま飛んでいる。
本当に器用な人だと思っていると、いつの間にか背後まで何かに詰め寄られていた。
「先輩、足元に何かいます」
「…木葉」
真っ直ぐ声が飛んだ直後、追ってきていた何かに向かって勢いよく拳をぶつけた。
「柊は飛べるからいいけど、僕はそういうのできないんだからね…」
「中津先輩?」
「最近ふたりでこそこそ話してるのを見てたから、今回は柊に手伝わせてもらったんだ。
僕も仲間に入れてほしくて、つい」
走っている中津先輩はただ笑っていて、呼吸ひとつ乱れていない。
「迷惑をかけてすみません」
「別に謝らなくていい。君にも君の事情があるんだろうから、それを駄目だとか言う権利は誰にもない」
「だけど、僕たちは困っているであろう後輩を放っておきたくなかったんだ。
八尋君は放っておいてほしかったのかもしれないけど、見て見ぬふりをしたくなかった…それだけだよ」
どうしてこの人たちは怒らないでいてくれるんだろう。
どうしてこんなに優しくしてくれるんだろうなんて考えると、感激して胸にこみあげてくるものがあった。
「僕も柊に抱えられたい」
「その速さで走れるならそっちの方が速い」
「あ。煙、おさまってきたよ」
その言葉に首だけ動かすと、紫煙はたしかに小さくなっていた。
ほっとしたものの、結局真相には辿り着けなかったのは少し悔しい。
「ありがとうございました」
「君はあの煙をどう見ているの?」
「…人を消してしまうかもしれない、死遭わせの紫色の煙、だと思っています」
「そっか、幸福の意味じゃないんだ!それなら人が消えることもあるよね」
「木葉は緊張感を持った方がいい」
ふたりは微笑ましい会話を交わしていて、やっぱり気を遣わせてしまいそうで1歩ずつ後ろに下がる。
『おふたりはいつから調べていらっしゃるんですか?』
「いきなりそんなこと訊いたら失礼だろ?…すみません」
「いや、別に構わない。知られて困ることじゃないし、寧ろ僕たちの方こそ情報がほしい」
「僕たちが調べはじめたのは、八尋君が休んだあたりからかな?せめて出現する共通点が分かればいいんだけどね…」
俺はただ、そうなんですかと一言答えるのでせいいっぱいだった。
…なんとなく共通点が分かった気がしたから。
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