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明かされる過去
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あの人とは、何年も前に取り壊しになる予定だった廃墟のうちのひとつで出会った。
『あら?あなたいつもここにいるわね。名前を聞かせてもらえないかしら』
「どうして僕の名前が知りたいの?」
『毎日あなたでは呼びづらいじゃない?それに、なんだか思いつめているように見えるから話を聞きたいの』
「…八尋。浜塚八尋。お姉さんの名前は?」
『私は翡翠。あなたの左眼と同じなの。よろしくね』
「翡翠…」
また明日なんて嘘で、明日にはきっとこの人はいない。
そんなふうに思っていたのに、翌日も翡翠は同じ場所にいた。
『またこんなところにこんな遅くまで…家の人が心配するわよ?』
「僕のことなんか誰も気にしないからいいんだ。今更何か言われても困るだけだよ。
…僕は他の人たちに視えないものが視える化け物から」
『その原理でいくと、私も化け物になってしまうわね』
「え…翡翠にも、あれが視えるの?」
『ええ。そして、あれをこちらへ近づけさせはしないわ』
大きな口を開いてこちらに向かってくる妖を、彼女は手から光を出して追い払った。
「すごい…。ねえ、今のどうやったの?」
『あれは霊力を集めたもの。あなたにもできるわ』
「霊力?」
『妖が視えるということはきっと妖力も強いんでしょうね。ご家族はいないの?』
「今は知らないおじさんの家にいるんだ。お父さんもお母さんも僕がいらなかったみたい」
この頃、両親が離婚話に発展していたことなんて当時の俺は知らなかった。
誰も俺の話なんて聞いてくれない…そう思っていた俺にとって、翡翠の存在は救いだったんだと思う。
『八尋、勉強はしてる?』
「ちゃんとやってるよ。今日も宿題と予習は終わらせた」
『勉強はいつかきっとあなたが自分の道を切り拓くときに役に立つわ。
それから、個人的には読書も推したいところね』
「本を読むのは嫌いじゃないよ。だけど、どうしても社会は好きになれないんだ」
『地図を使う方?それとも歴史?』
「歴史。みんな同じ顔にしか見えなくて、誰がどんなことをしたかなんて覚えられないよ…」
『歴史ね…私は好きだったわ。人の失敗談って自分の為になることもあると思うの。
馬鹿にしているわけではなくて、私が失敗だらけだったからそう思うのかもしれないわね』
「失敗だらけ?」
『生きている頃にね。今はもう失敗しないわ。…多分』
「翡翠、死んでるの?」
『…そう、やっぱり気づいてなかったの。私が怖かったら、もうここに来ては駄目。それさえ守ってくれれば二度とあなたの前には──』
「嫌だ。翡翠と一緒がいい」
『あなたは優しい子なのね』
あのときの翡翠の表情が忘れられない。
どうしてあんな顔をしたのか、今になって訊いてみたいと思っている。
とにかく、あの頃は楽しかった。
上手く人間と関われない俺にとっての初めての友人で、毎日放課後になるのを心待ちにしていたことをよく覚えている。
だが、それは突然崩れ去ってしまうのだ。
『あら?あなたいつもここにいるわね。名前を聞かせてもらえないかしら』
「どうして僕の名前が知りたいの?」
『毎日あなたでは呼びづらいじゃない?それに、なんだか思いつめているように見えるから話を聞きたいの』
「…八尋。浜塚八尋。お姉さんの名前は?」
『私は翡翠。あなたの左眼と同じなの。よろしくね』
「翡翠…」
また明日なんて嘘で、明日にはきっとこの人はいない。
そんなふうに思っていたのに、翌日も翡翠は同じ場所にいた。
『またこんなところにこんな遅くまで…家の人が心配するわよ?』
「僕のことなんか誰も気にしないからいいんだ。今更何か言われても困るだけだよ。
…僕は他の人たちに視えないものが視える化け物から」
『その原理でいくと、私も化け物になってしまうわね』
「え…翡翠にも、あれが視えるの?」
『ええ。そして、あれをこちらへ近づけさせはしないわ』
大きな口を開いてこちらに向かってくる妖を、彼女は手から光を出して追い払った。
「すごい…。ねえ、今のどうやったの?」
『あれは霊力を集めたもの。あなたにもできるわ』
「霊力?」
『妖が視えるということはきっと妖力も強いんでしょうね。ご家族はいないの?』
「今は知らないおじさんの家にいるんだ。お父さんもお母さんも僕がいらなかったみたい」
この頃、両親が離婚話に発展していたことなんて当時の俺は知らなかった。
誰も俺の話なんて聞いてくれない…そう思っていた俺にとって、翡翠の存在は救いだったんだと思う。
『八尋、勉強はしてる?』
「ちゃんとやってるよ。今日も宿題と予習は終わらせた」
『勉強はいつかきっとあなたが自分の道を切り拓くときに役に立つわ。
それから、個人的には読書も推したいところね』
「本を読むのは嫌いじゃないよ。だけど、どうしても社会は好きになれないんだ」
『地図を使う方?それとも歴史?』
「歴史。みんな同じ顔にしか見えなくて、誰がどんなことをしたかなんて覚えられないよ…」
『歴史ね…私は好きだったわ。人の失敗談って自分の為になることもあると思うの。
馬鹿にしているわけではなくて、私が失敗だらけだったからそう思うのかもしれないわね』
「失敗だらけ?」
『生きている頃にね。今はもう失敗しないわ。…多分』
「翡翠、死んでるの?」
『…そう、やっぱり気づいてなかったの。私が怖かったら、もうここに来ては駄目。それさえ守ってくれれば二度とあなたの前には──』
「嫌だ。翡翠と一緒がいい」
『あなたは優しい子なのね』
あのときの翡翠の表情が忘れられない。
どうしてあんな顔をしたのか、今になって訊いてみたいと思っている。
とにかく、あの頃は楽しかった。
上手く人間と関われない俺にとっての初めての友人で、毎日放課後になるのを心待ちにしていたことをよく覚えている。
だが、それは突然崩れ去ってしまうのだ。
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