夜紅譚

黒蝶

文字の大きさ
上 下
35 / 309
第5章『星逢いの空』

第30話

しおりを挟む
「先輩、早速新しい噂ですよ」
「…わくわくしてないか?」
陽向がそわそわしているのが気になって、つい口に出してしまう。
「ちょっと恋愛電話に似てるんですけど、ロマンチックなんです」
「どういう噂なんだ?」
「星合の空をふたりで見ると、固い絆で結ばれるらしいって話です」
七夕にあやかったものなのだと理解し、そうかと一言だけかえす。
「やっぱり先輩は興味ないですか?」
「ああ。けど、友情っていう意味なら歓迎だ」
問題は噂のあやふやさだ。
ふたりで観ること以外制限がないということは、危険な相手とふたりきりでも縁が結ばれかねないということになる。
「どうやって調べればいいんだろうな」
「しかも何かがいたとして、七夕にしか現れないんですよね?」
「そうだな。あと3日か…」
長いようで短いというのが率直な感想だ。
手っ取り早く噂の真意を確かめなければ、七夕の夜校舎は混雑することになる。
「そういえば、生徒会が催し物の許可申請してきたんだったか」
「はい。警備の人手が足りないからまわしてくれって…。人員不足でどうまわそうか考え中です」
「私も手伝うよ。もう課題は終わらせてあるし、夏季休暇の課題は先生からもらった分以外終わらせたし…退屈なんだ」
監査部の万年人手不足はよく分かっている。
それに、私もできることなら力になりたい。
「いいんですか?」
「私がいてやりづらいならやめておくけど、どうすればいい?」
「是非お願いします!高入生からはまだ選抜がなくて、後輩たちも待ってるので」
こうして、久しぶりに監査部の仕事を本格的に手伝わせてもらうことが決まった。
「ただいま」
「おかえりなさい!ご飯できてるよ」
「ああ。ありがとう」
穂乃に微笑みかけると、奥からすすき柄のカフェエプロンをつけた白露が出てくる。
「白露も手伝ってくれたのか」
《…やることが終わったら手伝うと言ったら、倍速で終わらせた》
「今日は監査部関連の資料がなかったから早かっただけだよ。
中等部はあんまりやることがないから、お姉ちゃんみたいにかっこよく解決することもないし…」
今年は中等部1年から2人スカウトされたと聞いている。
それに、些細なことから相談に乗ってくれると評判になっているようだ。
「周りの人たちは穂乃たちを認めてる。小さなことだから見逃されやすいはずなのに、相談に乗ってくれる優しい人達がいると話題になっていた」
「え、そうなの?嬉しいな」
「その積み重ねで信頼関係ができていくんだ。人に優しく接していれば、優しさがかえってくることもある」
「そっか…。それなら地道に頑張るよ」
《……》
穂乃を微笑ましそうに見つめる白露を見て、ふたりの仲がよさそうで安堵する。
星合の空の噂について話すか迷ったが、今は楽しい夕食の時間を壊したくなかった。
しおりを挟む

処理中です...