夜紅譚

黒蝶

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第7章『十五夜の戯れ』

第48話

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合宿が終わり、数日経つともう新学期が始まった。
「どうしよう…。私、ちゃんとできるかな…」
「穂乃なら大丈夫だ。それに、困ったときは周りを頼ればいい」
監査部の1年生は、これから本格的に仕事に関わっていくことになる。
思っていたのと違ったと辞めてしまう生徒も少なくない。
だからいつも人手不足になってしまうのだ。
「それじゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい」
穂乃と白露を見送り、ゆっくり家を出る。
そのとき、たまたま前を歩いていた生徒たちが話している内容を小耳に挟む。
「ねえ、もうすぐ十五夜だけどお団子用意する?」
「いいね!他のみんなにも声をかけてみようよ」
そういえばそんな時期かと思い返しながら後ろを歩いていると、気になる情報が手に入った。
「そういえば、十五夜にだけ現れる妖精?がいるらしいよ」
「え、なにそれ?怖いやつ?」
「ううん。なんか綺麗な舞が見られるとかなんとか…」
「へえ、そんな可愛いのもいるんだね」
詳しい話を聞きたいところだが、いきなり話しかけては怖がらせてしまうだろう。
他のメンバーにメッセージを送り、そのまま大学棟へ向かった。
【噂について情報を仕入れました。やばいのかやばくないのかまだ分からないです】
陽向から入った連絡はそんな曖昧なものだった。
噂そのものがあやふやなのかもしれないし、まだ情報不足だ。
「…やっときたか」
「遅くなってごめん。大学棟まで広まってる噂を調べてた」
いつものように検査を受けながらさらっと答えると、先生は苦笑しながら血液を採っていく。
「実害があるわけじゃないなら放っておいてもよさそうだが…」
「今のところ何もおきてないけど、これから何かあると困る」
「それもそうか。まだ漠然とした内容しか聞いていないが、この手の噂は暴走すると手がつけられなくなるからな…」
強い先生がそう言うくらいなのだから、暴走したら本当に大変なことになるのだろう。
「肝に銘じておく」
ベッドから起きあがり、そのまま屋上へ足を運ぶ。
誰も来ないその場所はやはり居心地がよくて、入り浸ってしまっていた。
旧校舎からの帰り道、陽向から連絡が入る。
【もしよかったら俺たちもお月見しませんか?ちびは経験ないらしいし、多分白露も初めてだと思うんです】
陽向らしい考えだ。
用意するものについて返信して廊下を歩いていると、すれ違いざま嫌な話を聞いてしまう。
「舞ってどんなやつなんだろうな?」
「さあ?というか、邪魔したらどうなるんだろう?ちょっと試してみたいよな…」
「もし人間じゃなかったら祟られるかもよ」
…ここまで噂になるということはおそらく人間ではない。
意味があるかもしれない舞を邪魔するなんて言語道断だ。
だが、人間は自分の目に映らないものは信じない。
結局何も言えないまますれ違った。
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