夜紅譚

黒蝶

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第9章『死者還り』

第65話

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その夜、ある教師に声をかけられた。
「こちらの学園はいかがですか?」
「…私はただの手伝い程度の者ですので、その質問にどう答えればいいか分かりません。それでは、失礼します」
手に握られているスマホを離してくれればそれでいいが、連絡先を聞かれると困る。
「折原、少しいいか?」
「はい」
見かねた先生に助けられた。
「ありがとう。どう回避すればいいか分からなくて…」
「相手を傷つけないように、なおかつ神経を逆なでしないように話すのは難しいな」
「…多分あの教師だな」
私たちがこの学園に来た目的はもうひとつある。
それは、学園内で複数の生徒や教師たちから執拗に迫ってくる教師がいて困っていると相談が寄せられていることだ。
校長が動けばすぐに分かってしまうので、外部から来た私たちに調査してほしいとのことだった。
「……」
離れた場所から凝視していると、何かに半分ほど入りこまれているのがよく分かる。
「…あれ、噂と関係あるのかな」
「調べてみるしかなさそうだな」
「うん。けど、今近づいても多分警戒されるからまた明日にする」
夜、屋上まで歩きながら先生と話す。
「瞬を置いてきてよかったのか?」
「ああ。あいつに無理をさせて弱らせるわけにはいかないからな。…下手に学園から離れすぎると大変なことになる」
忘れがちだが、瞬には地縛霊としての名残のようなものが残っている。
それがあるから長時間外に出ることができないのだ。
「寂しがってるんじゃないか?」
「…ちゃんと食事は摂ってるって連絡がきてる」
桜良が開発してくれた、グループチャットや通話ができるアプリ。
通知を切っているため見ていなかった。
《僕は大丈夫だから、先生は先生のお仕事頑張ってね》
「写真…みんな一緒に食べたんだな」
「もう少し穏やかに過ごしていたかったか、そうもいかないようだ」
ふと前を見ると、黒い影のようなものが移動している。
ぬるぬるした動きは、間違いなく人間のものではない。
「あれ、捕まえた方がいいのか?」
「多分」
紅を塗り、弓を握りしめる。
どうなるか分からないなか一撃放ったが、相手は何も声をあげない。
ただ、その身は少しずつ崩れているようだった。
「手応えがない」
「つまり本体は別か」
「そうみたいだ、な!」
気配を感じて矢を投げつけると、小さく悲鳴をあげて舌打ちした。
《何故分かった!?》
「経験則」
「気配が隠れきってなかった」
今度は影ではない相手は腕を押さえながら、そそくさとその場を立ち去ってしまう。
「待て」
「あいつは俺が追う。気になるんだろ?」
「…分かった。ありがとう」
追いかけようとしたが、別の気配を感じて先に屋上へ向かうことにした。
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