夜紅譚

黒蝶

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第13章『聖夜の贈り物』

第109話

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そして夜。ようやく先生から動く許可をもらってあちこちを探索する。
相変わらず寝ている時間が多い桜良の頭を撫で、早速昨日の部屋へと向かった。
どうすればいいかはもうなんとなく分かっている。
「……来たか」
誰かが近づいてくる音がすると同時に、大きな時計の中へ隠れた。
一応ノイズを弾いてくれそうな札を耳にはりつけているが、これで全部防ぎきれるかは不明だ。
《ドコナノ、私ノ簪……》
どこからともなく現れた着物姿の女性は、体から大量の血を流しながら探しまわっている。
それらしい破片はなかったが、それでも彼女は諦めていない。
《勘助サンカライタダイタ、大切ナモノ…返シテ》
かたかたと音がして、時計の隣のワードロープが開けられる。
《私ノ子、ココカ?》
《ミギュッ!》
小さな何かが捕まえられ、そのままどこかへ連れていかれる。
やはりそうだ。最近の噂は童話や昔話に沿っていることが多い。
今回の話はここ以外の場所に隠れては見つかってしまう。
《ドコニアルノ!》
テーブルの下を見たりしているが、残念ながらこの噺は物を探すものではない。
《簪…一匹?》
本人も無自覚のうちに動いているのだろう。
そして、結果的にその行動が人間たちを奇行にはしらせてしまっている。
『先輩、今どこですか?』
「答えられない」
『ピンチなんじゃ、』
「絶対来るな。いいな?」
しばらく這いずり回っていた女性は、何やらぶつぶつ呟きながら外へ出ていく。
ぐちゃぐちゃになった室内に、床の白い粉。
「…おおかみと7匹のこやぎ」
『どうしたんですか、いきなり』
「ごめん。こっちの話だ」
この場所を探る他ないが、簪なんて一体どこにあるんだろう。
「……あ」
【見た目だけが全てじゃない。
一見そうは見えないもののなかに答えが隠されていることもあるんだ】
「…あなたが言ってたとおりみたいです、義政さん」
懐かしい言葉を思い出しながら古時計に手を伸ばす。
秒針だと思っていたそれは、間違いなく宝石がついた簪だった。
あとはこれを届けるだけだが、肝心の狂った人間たちの理性を戻す方法が分からない。
部屋の外に出たところで突然背後から声がした。
「あ、いたいた!」
見知らぬ人に声をかけられ、その場から動けなくなる。
まだあまり本調子ではない体を動かして、全力で逃げるなんて無理だ。
「殺しがいがありそうね!きゃははは!」
相手の目をよく見ると、その瞳に色はない。
そのうえ、持っているのはチェーンソーではなく大量のカッターナイフだ。
「……ごめん。これからまた鬼ごっこだ」
どこまで逃げればいいか分からず、そのまま鬼ごっこがはじまる。
毒気にあてられていることもあって、全速力で逃げることはかなわなかった。
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