夜紅譚

黒蝶

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第18章『虚ろな瞳の先』

第158話

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もう高等部に顔を出すのは難しい。
あとは先生に任せて別方面から攻めるしかなさそうだ。
「ありがとう穂乃。おかげで早く解決できそうだ」
「よかった…。早く見つけないとね」
「そうだな」
先生にメッセージを送り、久しぶりに大学棟へくりだす。
「あ、憲兵姫!最近全然見ないからどうしたんだろうと思ったよ」
「おはよう。ひとつ、気になったことを聞いてもいいか?」
「いいけど…なに?」
「須郷さん、お兄さんがいるんじゃないか?」
「…そっか、バイト先が同じなんだっけ」
何故寂しそうな顔をするのか分からず、首を傾げる。
「形式上、家族ってことにはなると思う」
「…ごめん」
「いいんだよ。憲兵姫は何も悪い子としてないじゃん」
連れ子同士という可能性を考えていなかった。
やはり人との距離のつめ方が分からない。
…他人と関わることを避けてきたから。
「もうひとつ訊いてもいいか?」
「勿論!」
「最近、こいのぼりが傷つけられたって妹から聞いたんだ。弟さんから何か聞いてないか?」
「その話、昨日電話したとき聞いた。健太たちは関係ないみたいだけど、ガラの悪い高等部の連中が中3生を強引にどこかへ連れていくのを見たって子がいるみたい」
「そうか。…ありがとう。知らせておく」
そのまま教室を出ようとしたところで手首を掴まれた。
…流石に痛い。
「あ、ごめん!大丈夫だった?」
「問題ない。何かあるのか?」
「実習もオンラインで受けるつもりなら、せめて次の講義は受けていったら?
ほとんどリモート参加でしょ?なんかもったいない気しない?」
彼女は真剣に言っている。
それを断ることはできず、そのまま席に座った。
「分からないところとかある?」
「特にないかな」
「すごい…私の方が教えてもらわないといけないかも」
須郷さんはいい人だ。
真面目に午後の講義を受け終わり、臨時で設置された大学棟監査室へ向かう。
「折原先輩、お久しぶりです」
「久しぶり。…と言っても、そうでもない気もするが」
何人か内部進学した監査部メンバーが再集結し、監査部大学部としての活動がはじまった。
「あ、あの…俺たち、法学部1年になりました」
「定時制のメンバーだったな。進学おめでとう」
「ありがとうございます」
リモートで会議に参加する生徒もいれば、内部進学以外の道に進んだ生徒たちもいるため人数は高校の頃より減った。
「意見箱、各学部に置かせてもらえないか掛け合ってみます」
「そうしよう。大学は人数が多いから、問題があっても目が行き届くわけじゃない。
みんな…高校部よりさらに厳しい状況になるが、ついてきてくれるか?」
「「はい!」」
本当にいい後輩を持った。
陽向だけではなく、他のメンバーたちもついてきてくれる。
…だから、早く噂と決着をつけなければならないのだ。
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