夜紅譚

黒蝶

文字の大きさ
上 下
227 / 309
第21章『夜の学校』

第190話

しおりを挟む
「…桜良、聞こえるか?」
『はい』
「聞きづらいんだけど、陽向に何があったか答えられる範囲で教えてほしい」
『よく分からないんです。私が声をかけたときは、蔵が開かなくなったから思いきり殴るって…』
桜良の声は震えていて、混乱しているのがよく分かる。
それでも話を続けてくれた。
『少しして、陽向が血を吐いたような声をあげたんです。声をかけたけど、話す余裕もなかったみたいで…』
「そうか。教えてくれてありがとう」
桜良にも陽向を襲った相手が分からないのなら、このまま起きるのを待つしかない。
暗い雰囲気がただようよりいいだろうと話題をふった。
「そういえば、桜良も中等部の研修には参加したのか?」
『一応しましたけど…』
「できればそのときのことを聞かせてほしい」
『あのときは体調を崩して、ほとんど保健室で過ごしました。
…教室で休むように言われていた私のところに陽向が来て、焚き火は囲めなくても火花は見られるって花火を持ってきてくれたのを覚えています』
「陽向に聞いたら、自分は不良生徒だから休んたって言ってた」
『それなら、今の話は秘密にしてください。…気遣ってくれたのを無駄にしたくないので』
「分かった」
やはりあの答えは半分嘘だったようだ。
それから時間が経たないうちに、陽向ががばっと起きあがった。
「すみません、俺…」
「気にしなくていい。何があったか教えてくれ」
「蔵の扉が突然閉まったから、力づくで開けようとしました。
けど、横から落ち武者みたいに髪が長い…多分着物を着た女だったと思うんですけど、いきなり首を掻っ切られました」
「…成程、繋がってきた」
『どういうことですか?』
おそらく、陽向を襲った女性が鏡の妖が話していたあの人なのだろう。
そして、偶然か必然か。
あの場所で取り憑かれたように百物語をした生徒たちが呼び出してしまったのが女性だった可能性が高い。
「…頭の中で最悪のシナリオが組みあがった」
「どういうことですか?」
まだ仮説という前置きをして説明すると、ふたりの声が曇った。
『そこまで偶然が重なっていたら最悪ですね』
「もしそうなら、百物語を最後までやらなかったってことになりますよね?」
「或いは何か問題がおきて、中断せざるを得なくなったのか…」
鏡の妖が出たのが先か、着物の女が出たのが先か。
問題は、それを知る人物が全員姿を消してしまっていることだ。
「もう一度探してみる」
「俺は扉の前に立ってますね」
出入り口のところにある大きめの籠が気になっていた私は中を覗いてみる。
「…ひとりだけ助かったみたいだ」
真っ青な顔をした女子生徒が眠っていて、外へ運び出した。
しおりを挟む

処理中です...