夜紅譚

黒蝶

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第22章『死者の案内人』

第199話

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「助かりました」
陽向には席を外してもらい、今夜はもう休んでほしいと告げてある。
車掌を頭を下げられたが、私は特に何もしてない。
「仲間がかなり頑張ってくれたんだ」
「…図々しいのを承知で、もうひとつお願いしてもよろしいでしょうか?」
「内容による、かな」
みんなに負担がかからないものなら受けられるけど、できれば巻きこみたくない。
「実は今夜、捕食者が動きはじめたことが判明しました。この町に潜んでいるようですが、私たちでは情報を追いきれません」
「つまり、今回みたいに引き渡せばいいのか」
「倒してしまっても大丈夫です。…お願いします。お客様を貪り喰われるわけにはいきません」
頭を下げられたら断るわけにもいかない。
「分かった、なんとかする」
「ありがとうございます」
どこからともなく現れた列車に乗せられ、車掌は乗客とともに消えていった。
「町全体を使った鬼ごっこ、か」
厳しいことは違いないが、このまま放置していい問題とも思えない。
『何を引き受けたんですか?』
「陽向…聞いていたのか」
『すみません。ついうっかり』
聞かれてしまったのなら仕方ない。
先程頼まれたことについて、細かい事情を説明した。
「……というわけだ。どうする?」
『当然俺も参加します。流石の先輩でも、町中を駆け回って探すのは無理でしょ?』
「ありがとう。…ごめん」
『謝らないでください。俺たちの仲じゃないですか』
そう言ってもらえるのは嬉しい。
ただ、捕食者というのはとてつもなく危険な存在だ。
「瞬の周りを離れないよう、先生に説明しておかないと」
『捕食者か。懐かしい響きだな』
どうやら全部聞かれていたらしい。
捕食者というのは、文字どおり死霊を騙してその魂を喰らう存在のことだ。
生者に干渉することはめったにないが、死霊である瞬相手にはどういう動きをとるか分からない。
「私たちでなんとか食い止めよう」
この時期はハロウィンより死霊が増える。
…それは、捕食者にとって大量の餌が町を歩きまわっている状態になるということだ。
『俺たちも喰われますかね?』
「どうだろうな…」
陽向の特異体質に、私の中途半端な状態…狙われない気がしないでもない。
『今夜はもう休め』
「そうするよ」
『私も参加させてください』
「桜良…」
桜良の声にはいつも以上の想いが滲んでいた。
「分かった。私たちから離れないようにな」
『ありがとうございます』
陽向を近くで護りたいのだろう。
それにしても、3人で町の見回りか…。
『懐かしいですね』
「そうだな」
一旦通信を切り、夜風にあたりながら目を閉じる。
今夜はこのまま目を閉じていよう。
……これ以上悪い状況にならないことを祈りながら。
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