夜紅譚

黒蝶

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第25章『アイス・グラウンド』

第224話

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「白川先生と話したの?」
「うん。穂乃から見た白川先生はどんな人だ?」
放送室にいた穂乃に尋ねると、真っ直ぐな視線を向けて教えてくれた。
「とっても優しい先生だと思う。先生の家は母子家庭だったから、困ったことがあったら言ってねって…」
「そうか」
「先生のお母さんは足が不自由で、それが原因で色々うまくいかなかったんだって。…あ、今の話は内緒ね」
「勿論」
穂乃が放送して土曜の授業を受けている間、陽向たちと作戦を練る。
「足が悪いのを理由に捨てられた姉と、不慮の事故に見せかけて殺された妹か…。
最後くらい、なんとか言葉を交わせたらいいんですけどね…」
「視えない人間に視せるには体力がいる。…それに、本人も見られたくないと思う」
ふたりが言いたいことも分かる。
ずっと離れていた相手なら、少しくらい会わせてやりたい。
その気持ちがないわけではないが、それ以前の問題が立ちはだかっている。
「なんとか早めに解決したいんだけど、相手が現れる場所が噂になっていないのが難点だな」
「そうですね…。なんか抽象的な表現だし、凍らせるって言っても、今のところ物理的にしか凍ってないし…」
「その氷ももう溶けている。…まるで、標的以外に興味がないような動きに見えます」
「それじゃあ、次は加害生徒だったふたりの子どもについて調べてみるか」
姿や気配で間違って襲われるということも充分ありえるだろう。
「たしか、ふたりとも中等部でしたよね?」
「資料によるとそうらしい」
あまり関わりがない生徒にいきなり話しかけるのは難しい。
「俺が行きます。そういうの、多分1番得意なので」
「頼む」
陽向を見送った後、桜良から少し話を聞くことにした。
「…最近体調を崩したりしてないか?」
「はい。詩乃先輩たちのおかげでゆっくり眠れていますから」
「もし何かあったら遠慮なく言ってくれ」
「ありがとうございます。…あの、これ」
「香袋?」
金木犀の香りがするそれは、間違いなく手作りで。
「ありがとう。大切にするよ」
「気に入ってもらえてよかったです」
無理をしていないか少し不安になっていたが、元気そうで安心した。
「やっぱりここにいたか」
「先生?どうしたんだ?」
「白川先生が探してる」
約束までまだ時間があるのに、何があったんだろう。
「ありがとう。行ってくるよ」
旧校舎の一室へ向かうと、誰かと通話している白川先生が目に入った。
「分かった、伝えるね。…ごめんなさい。時間ができたから先に知らせておこうと思って…」
「こよみさんの話ですか?」
「うん。さっき母から聞いたんだけど、こよみさんは放送コンテストで好成績を残してから表情が暗くなったみたい。
喉が枯れるほど練習して、それを加害生徒にからかわれたんだって。…頑張る人が気に入らないから突き飛ばしたのかな」
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