夜紅譚

黒蝶

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第25章『アイス・グラウンド』

第226話

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「何があった?」
「あ、足、足があ!」
混乱している様子の男子生徒の目をタオルで隠し、あまり火力の出ない札で少しずつ溶かしていく。
氷を溶かしきったところで、1枚の紙が出てくる。
【次はおまえだ】
「…先生、今話せるか?」
『どうした?』
「中庭で足を凍らされた生徒を発見。氷は溶かしたけど、今はパニックをおこして意識を失った。
意味深なメモも拾った。…ちなみに男子生徒は調査対象だ」
『了解。すぐ向かう』
男子生徒と女子生徒がふたり。
急いで女子生徒たちを見つけなければ大変なことになる。
「メモは?」
「これ」
「…気配が似ているからだろうな」
男子生徒を先生に任せ、陽向たちと連絡をとった。
またあの場所に行っても会える気がしない。
「私は旧校舎と格技場をまわるから、陽向は新校舎を確認してくれ」
『了解です!見つけたらすぐ報告しますね』
陽向が駆け出す音を聞いてから、旧校舎周辺を見回る。
音楽室や美術室、使われていない教室全て…そして、あの階段。
やはり旧校舎内にはいないらしく、痕跡すら見つけられなかった。
『女子生徒を見つけました。特に怪我はしてないみたいですけど…あ!』
陽向が走り出す音と、金属がぶつかったような音。
それだけ固い氷に打ちつけられたら、普通の人間なら死んでしまうかもしれない。
『…先輩、なる早で来てもらっていいですか?』
「分かった。すぐ行く」
たしか、足場を組んで改修工事をしているエリアがあったはずだ。
その方へ走っていくと、怯えて動けなくなっている女子生徒が座りこんでいた。
「何があったんだ?」
「し、知らない!私は知らない!」
「…そうか。ここで見たことは全部忘れていい。その代わり、自分の行いを反省することだ」
「え…?」
「実習に来てきる先生に嫌がらせ行為を繰り返しているだろ。
…残念だが、この学園はそういったことに厳しいからな」
「ひっ…」
四足歩行で逃げていった生徒のことはもういい。
ただ、目の前の氷山に飛びこむ覚悟を決めた。
「陽向、聞こえるか?」
『雪山の中、なんですけど…やばいです。俺はあんまり、ですけど、氷像みたいになってて…』
「すぐ向かう。…先生、桜良。すまないが何か体を温められるものを用意しておいてくれ。
瞬と穂乃は茜と待機。白露はふたりのサポートを頼む」
『了解しました』
『何があるか分からない。気をつけろ』
外側でもこの寒さだ。内側の温度はさらに低いだろう。
「陽向、もう少しだけ耐えてくれ」
寒さ対策をしている時間はない。
夕日が沈む頃、静かに氷の山へ足を踏み入れた。
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