夜紅譚

黒蝶

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第25章『アイス・グラウンド』

第229話

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「…目が覚めたか」
目を開けると、真っ白な世界…といっても、暖かい室内にいた。
「陽向は?」
「開口一番それか。…あいつはもうぴんぴんしているから心配ない」
「生徒は?」
先生は言いづらそうにしながら教えてくれた。
まず、男子生徒は足が動かなくなったようだ。
全身を凍らされた女子生徒は集中治療室、残りのひとりは四肢欠損という結果になったらしい。
「割とえげつないな」
「だが、もう成仏したんだろう?」
「うん。あの子ならきっと大丈夫だ」
彼女は純粋に体育祭という行事を大切にしていただけだ。
それに、これだけ大事になれば白川先生の一件も放っておけないだろう。
「先生は知ってたのか?」
「白川先生の話なら初耳だった。中学棟には殆ど行っていないからな」
「…そうか」
がらがらと扉が開けられ、瞬が不安そうな表情で入ってきた。
「詩乃ちゃん、大丈夫?」
「心配してくれてありがとう。けど、この通り平気だ」
体には包帯が巻かれているものの、もう足の感覚も戻っているし寒くない。
「そういえば、不審死?事件があったらしいよ」
「なんで疑問形なんだ」
「僕と先生には分からなくても詩乃ちゃんなら知っていそうだから。…この男の人、知ってる?」
【猛暑日に凍死したと思われる女性の遺体を発見。似たような現象が夫にも】
その記事に載っていた写真は、間違いなくあの男だった。
「全身氷漬けになった生徒の両親だ。真剣に練習に取り組んだら解放するって言ってたんだけどな…」
少女の言葉を真面目に捉えていなかったのかもしれない。
あるいは、当時のまま少女に危害をくわえようとしたのか…今となっては謎だ。
「男の方は病室で謝り倒しているらしい」
「そうか」
改心したとは思えないが、二度と繰り返すことはないと信じたい。
「そういえば、おまえの説明をしてなかったな」
「何かまずいことでもあったのか?」
「腕の感覚欠損が戻るには暫くかかる。あと、右腕の包帯は俺が換えるとき以外絶対外すな」
「…詩乃ちゃんの腕、ちょっと大変なことになってるんだって」
「そうなのか?特におかしなことはないと思うけど…」
「酷い凍傷だ。右腕に関しては裂傷も酷いから今夜は帰せない」
「…そうか」
傷はできるだけ治しておきたい。
「穂乃の体育祭までに動いてもいいか?」
「…正直五分五分だ」
「それだけはどうしても譲れない」
穂乃にできるだけ普通の学生生活をおくってほしい。
お弁当だって用意したいし、監査部の仕事をしながら応援もするつもりだ。
「頼む」
先生の渋い顔を見ながら何度も頼みこんだ。
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