夜紅譚

黒蝶

文字の大きさ
上 下
281 / 309
第26章『新たな露』

第233話

しおりを挟む
「成程、つまり相手を傷つけないように止めるのがベストってことですね」
「そういうことになるな。いつも以上に難しいと思うがなんとか頼む」
「了解です」
後から合流した陽向に方向性を伝え、そのうえで警備の配置を考えた。
「穂乃、今夜は放送室にいてくれ」
「学校にいてもいいの?」
「うん。ただし、桜良から離れないように」
「分かった!」
「桜良、悪いが頼む」
『穂乃さんがいると和むので楽しみです』
ひとりでいるところを狙われればどうなるか分からないうえ、契約や白露への霊力補充をするためには側にいてもらう必要がある。
ただ、穂乃を護るのが第一優先事項になれば白露が思うように動けない。
桜良は察してくれたのか、二つ返事で了承してくれた。
「あとはいつもどおり見回りをするだけだ」
「茜を狙ってくる妖もいるかもしれませんよね…」
「そこは俺に考えがある。多少凌げるだろうが、万が一があった場合は頼んでもいいか?」
「「勿論」です!」
陽向はわくわくした様子で目を輝かせている。
ある程度話がまとまったところで、各々ただの学生としての仕事をこなした。
──そして夜。
弓の確認をしていたところに白露がやってきた。
「どうした?」
《何故おまえたちは何の見返りも求めず、誰に感謝されるわけでもないのに力をふるう?》
「前にも似たようなことを訊かれたな。…強いて言うなら、護りたいものがあるからだ。
私からすれば生きている人間が1番怖いし、妖たちだって噂が原因でおかしくなっているだけのことが多いから…。あと、誰かの笑顔を護れたら充分じゃないか?」
《誰かの笑顔…》
「困っている人に手を差し伸べるのに理由はいらないだろ?今回はそれが彼女ということになるが」
白露は覚悟を決めたように刀を抜く。
そして空高くかかげ、指揮者のように規則的に軽くふりはじめた。
なんとなく邪魔をしたらいけない気がして黙って見ていると、刀に光が集まっていく。
《…あまり離れていない場所にいる》
「そういえば、気配を辿れるって言ってたな」
《正確に言えば、刀が共鳴しているのだ》
「対になってるからってことか?」
《ああ。昔あいつが教えてくれた。迷子になってもこれで会えると》
まるで星の光を全て集めたようなそれは、一方に向かって光を放つ。
《俺なんかよりずっと真っ直ぐで、誰かに寄り添おうと必死な奴なんだ。
…黒、何故あんな姿になった?今どこにいる?》
流れ星のように周囲を明るく照らした瞬間、漆黒の刃が白露の腕を貫く。
「白露!」
光は消え、倒れこむ白露を震えながら見つめる彼女の手には刀が握られていた。
しおりを挟む

処理中です...