峽(はざま)

黒蝶

文字の大きさ
13 / 133
第2幕

プロローグ『なれてきた日常』☆

しおりを挟む
あれから季節は変わって、桜が咲き誇り、気づくと花びらが舞い散る頃になっていた。
「千夜、こんなところでよかったのか?」
「私は真昼と出掛けられるならどこでもいい」
今日私たちがきたのは、ゲームセンターだ。
(可愛い...)
小さなハリネズミのマスコットをじっと見ていると、真昼がお金を入れる。
「...これ?」
小さく頷くと、真昼は気合いを入れてそのまま狙いを定めた。
「取れた」
「あ、ありがとう...」
もふもふの手触りに、私は優しく撫でてみる。
(なんだか落ち着く...)
真昼はふっと笑って、私の頭をくしゃくしゃと撫でる。
「髪が乱れる...」
「乱れたら俺がなんとかする」
そう言いながら、撫でるのをやめてくれない。
「...っ」
「千夜?」
私の様子がおかしいことに気づいたのか、手をひいて歩き出す。
「...まだバイトまでは時間あるし、ゆっくりでいいから」
「ごめん...っ」
「気にしなくていい。それより、楽しかったか?」
私が頷くと、真昼は本当に嬉しそうに笑ってそっかと呟いた。
「勝手にお茶淹れさせてもらうな」
私はその言葉に頷いて、真昼に見えないところでそっと刃物を手にする。
「ん...」
やっぱり飲まないと持たなかった。
以前までだと、多分際限なく飲み続けていたと思う。
「千夜、もう行けそうか?」
恋人の声が聞こえて、これ以上は駄目だと頭が警笛を鳴らす。
(いけない、ちゃんと行かないと...)
「...お待たせ」
「ん、無理はしてなさそうだな。それじゃあ行くか」
然り気無く差し出された手を、私はきゅっと握りしめる。
「...」
「真昼?」
「迷子防止に、こうする」
真昼は指を絡めて、手を繋ぎなおす。
ちらっと顔を見ると、頬が林檎のように真っ赤に染まっていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「二人とも、さてはデートしてきたな?」
「あんまり変なこと言うと怒りますよ」
「店長さん、おはようございます」
真昼が言い返して、私は挨拶して...これが最近の日常になっていた。
「いらっしゃいませ」
働くということにも、だいぶなれてはきたと思う。
はじめは迷惑をかけっぱなしで本当に続けていけるのか不安だったけれど、真昼が励ましてくれたお陰で今もこうして続けられている。
(真昼はやっぱりきらきら輝いてる)
私には勿体ないほどできた恋人...少し目が合っただけで、胸がとくんと音をたてる。
けれどそれからしばらくして、異常な喉の渇きを感じた。
(おかしいな。いつもより多めにチョコレートを食べたはずなんだけど...)
ポケットに入れていたハリネズミをそっと抱きしめて、休憩時間までなんとか乗りきった。
「...」
真昼には多分気づかれていたけれど。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

処理中です...