峽(はざま)

黒蝶

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第2幕

看病★

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大学の帰り道、メールが届いていたことに気づく。
《佐藤が体調を崩して奥の部屋で寝かせてる》
「...!」
もしかすると、吸血欲求を押さえつけすぎていたのかもしれない。
俺は自転車をとばす。
(千夜...)
「店長!千夜は...」
「ちょっと待ってな。...起こしてくるから」
店長に支えられながら出てきた千夜は顔が真っ青だった。
「真昼...」
「帰れそうか?」
「...うん。店長さん、ごめんなさい。結局他の人たちにもご迷惑をかけてしまって...」
そんな千夜を見て、店長は笑顔で答えた。
「今日一日、あんなに働いてもらったのに誰も佐藤を責めたりなんかしないと思うよ」
「そんな、こと...」
「いいから今日はもう帰りな。二人とも明日はシフトないし...お疲れ様。ゆっくり休んでくれ」
(本当にホワイトだよな、ここ)
俺は千夜を支えながら一礼して店を出る。
歩くのも辛そうなので、取り敢えずタクシーを呼ぶ。
「勿体ないよ...」
「お金のことは気にしなくていいから。それより、俺にもたれかかっておけ」
「うん...ごめん」
申し訳なさそうにしている千夜の顔色はやっぱりいつもより蒼白く見える。
「横になれるか?」
「...うん」
肩を上下させて息をする千夜を寝かしつけて、氷嚢と氷枕を持ってくる。
(相当無理して働いたな...)
「...これで熱下がるかな」
「真、昼...」
「どうした?」
「...手、繋いでほしい」
俺はいつもより弱い力でそっと手を握る。
千夜は嬉しそうに微笑むと、そのまますやすやと眠ってしまった。
高熱が出ているようで、タオルで額や首の汗をふいていく。
(やっぱりすごい熱だな...予想以上だ)
薬を探しに行こうとすると、手を思っていた以上に強く握りしめられていることに気づく。
このままでは動くに動けない...。
(しばらくしてからにするか)
気が緩んだせいか、俺もだんだん眠くなってくる。
ちゃんと看ていたいのに眠気に勝てる気がしない。
...レポートもやっておきたいが、今はこっちが優先だ。
「...っ」
(なんだか苦しそうだな...)
布団を腹部だけにかかるようにしてやると、小さく声が聞こえた。
「真昼...」
「俺はここにいる」
寝言だったのか返事はかえってこなかったけど、先程より顔色がよくなってきているように見える。
(明日は休みだし、このままゆっくり寝させてやろう)
店長から渡された千夜の鞄から何かが出ているのが目にはいる。
「...本当に真面目だな」
はじめの三頁程だけ見てすぐやめたが、そこにはびっしりと丁寧な文字でカフェのマニュアルができそうなほど細かく色々なことが書かれていた。
(本当に好きだな...)
素直に口に出すことはできないが、心ではいつだってそう思ってる。
さて、目が覚めたら何を作ろうか。
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