峽(はざま)

黒蝶

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第2幕

番外篇『初めての相談相手』☆

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「真昼...」
「大丈夫か?」
「...うん」
やっぱり人混みは苦手で、真昼に迷惑をかけてしまった。
「ごめんなさい...」
「謝る必要なんてないだろ?」
真昼はそう言ってくれたけれど、私は一人ため息をついた。
本当は遠慮して行きたい場所も我慢しているのではないだろうか...。
「佐藤さん、どうかした?」
「先輩...」
「佐藤、私も話を聞こうか」
「店長さん...」
先輩はバイト終わりの時間になって、店長さんが相談にのってくれた。
「...成程。佐藤は人が苦手なのか」
「いえ、その、えっと、」
「ごめんごめん、人が沢山いると駄目なんだな?」
「...はい」
私が肩を落としていると、店長さんはそっと手を握ってくれる。
「佐藤、私があいつ相手に遠慮してるところを見たことある?」
店長さんが指さした先には、旦那さんであるシェフが片づけている姿があった。
「...見た感じでは、ないなって思います」
「でしょ?その代わり、向こうも遠慮なしに言ってくるんだ」
「そう、なんですか?」
全然知らなかった。
二人がプライベートな話をしているところを、見たことがないから。
(遠慮しているようには見えなかったけど、お互い思ったことを伝えあってるんだ...)
「佐藤。遠慮せずに嫌なことは嫌って御舟に言ってる?」
「はい。...寧ろ言い過ぎなくらいです」
「なら大丈夫。御舟は正直者だし、無理なことは無理だってはっきり言うだろうから」
店長さんは笑って背中を押してくれた。
「ほら、そろそろ行かないと御舟が心配する」
時計を見てみると、その針は真昼が講義を終えてこの場所にやってくる時間をさしていた。
「全然、気づきませんでした...」
「それくらい真剣に悩めるのは、相手を想ってるから。...その気持ち、忘れないで」
「店長さん」
「ん?」
私は一礼する。
「ありがとうございました」
「私でよければいつでも話を聞くから言って」
「...はい」
扉を開けると、そこには真昼が立っていた。
「千夜。...お疲れ」
「真昼もお疲れ様」
二人で歩く帰り道がいつもより広く感じて...なんだか心が晴れやかになっているような気がする。
「店長と何盛りあがってたんだ?」
「...秘密」
「知りたいけど、今は聞かないでおく」
「真昼」
「どうした?」
私は真昼の手を握って声をかけた。
「いつもありがとう」
「だから、いきなりそういうのは照れる...っ」
月明かりに照らされて、二人で歩く道は眩しすぎるくらいの光を放っていた。
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