峽(はざま)

黒蝶

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第3幕

夫婦のような時間☆

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「...や」
「んん...」
「千夜、起きろ」
「...真昼?私...っ!」
いつの間にかベッドの上にいて、真昼の作業が終わるのを待っている間に眠ってしまったのだと理解する。
「慌てなくて大丈夫だから。もうそろそろ起こした方がいいと思っただけだし」
「ごめんなさい、私...寝るつもりじゃ、」
「いいから、ほら。起きられるか?」
私は頷いて体を起こす。
なんだかいい香りがして、真昼が何かを用意してくれたのだと察する。
「ご飯、これから作るから手伝ってくれるか?...まあ、その前に味見してみてほしいものはあるけど」
真昼についていくと、その先にあったのはクマが描かれたラテアートだった。
「可愛い...」
「もうちょっと綺麗にできるといいんだけど、今の俺にはそれが限界なんだ」
売り物にできそうなほど綺麗なのに、真昼はまだまだだと言う。
(本当に自分に厳しい人だな...)
「私は、これが売っていてもおかしくないと思った」
「ここ、ちょっと欠けてるだろ?...これじゃ駄目なんだ。けど、ありがとう」
いつものように頭を撫でられて、私はだんだん嬉しくなってくる。
飲むのが勿体無いくらいのものだったけれど、やっぱり味はしなくて...。
「どうだ?」
「...適温、だと思う」
「率直な感想ありがとう」
怒られると思っていたのに、真昼は目を細めて私の方をじっと見つめていた。
「さて。そろそろ飯作るか」
「うん」
真昼が汁物と野菜を準備している間、私は魚をフライパンで焼いていく。
「...そうだ。風呂をすませたら見せたいものがあるんだ」
「見せたいものって?」
「後でのお楽しみ」
「分かった、楽しみにしてる」
そのとき、タイミングよく炊飯器が叫ぶ。
できあがったものを並べながら、ご飯をつぐ。
「それじゃあ、いただきます」
「...いただきます」
味はやっぱり分からない。
分からないけれど、いつものような虚しさはなかった。
「なんだか夫婦みたいで楽しかったね」
「...っ、ごほごほ!」
私が率直なことを言った瞬間、真昼は喉に詰まらせてしまったらしく噎せてしまった。
「大丈夫?」
「お、おまえが急に恥ずかしいことを言うからだろ!?」
「...?」
「きょとんとして...本当に天然だな」
真昼によく言われるけれど、自覚は一切ない。
発言ひとつひとつに気をつけているつもりだけれど...今日もまた、指摘されて初めて気づいた。
「ごめ、」
「将来、そうなってるかもな」
「...!」
真昼が小さく呟いたのを聞いた私は、頬が熱くなるのを感じる。
ーーそれから少しの間、心地よい沈黙が流れた。
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