峽(はざま)

黒蝶

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第3幕

楽しい夜ふかし☆

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『こんばんは。染さん、起きてますか?』
その日の夜、私は早速染谷さんに連絡してみることにした。
けれど、二時間たっても返事がくることはなく...。
(寝ちゃってるのかもしれない)
眠れそうになかったので、コンビニに行くことにした。
「あ、いらっしゃいませ」
「...こんばんは」
いつもは昼間にいる店員さんだ。
眼鏡をくいっと持ちあげて、そのままほかほかのチキンを注文した。
「飲み物とセットで買うとお安いですよ」
「それじゃあ...お茶もください」
毎日にこにこして頑張っている店員さんを見ていると、私も頑張ろうと思える。
「ありがとう、ございます」
「こちらこそ。ありがとうございました!」
いつもより少しだけ明るい気分になった帰り道、スマートフォンがポケットを揺らす。
(誰からだろう...)
家まで急ぎ足で戻って画面に目を向けると、そこには遅くなってごめんの文字。
「染さん...」
『入浴してたら思ったより時間がかかってた。佐藤ちゃん、今何してる?』
『コンビニ行ってきました。夜食を食べています』
食べながらそう返すと、ものすごいスピードで返事がかえってきた。
『いいな、それ。俺も今から行ってこようかな...』
咀嚼しながら、窓から真昼の家を見る。
今日はもう灯りが消えていて、寝ているのだろうということが分かる。
『佐藤ちゃんじゃなくて、千夜で大丈夫ですよ』
すると今度は電話がかかってきた。
「...もしもし」
『ごめんな、食べてるところだろうに...』
「いえ、気にしないでください」
もしかすると、聞かれたくないことを聞いてしまったのかもしれない。
謝ろうとしたそのとき、電話口から声が小さく聞こえてきた。
『あのな...名字で呼んでるのにはちょっとした理由があるんだ。俺だけ名前呼びで相手を名字で呼んでると、心の距離を感じるっていうか...』
「納得しました。変なこと言ってしまってごめんなさい」
『謝る必要なんかないだろ?気にするな』
優しい声が耳に届いて、内心ほっとした。
『佐藤ちゃんはさ、今チキン食べてる?』
「え、あ、はい...」
『俺も好きなんだ、チキン。骨無しっていうのがまたいいよな』
「私もそう思います」
他愛ない会話をしながら、私はチキンを齧って染さんはアイスを食べはじめる。
「...今度また、カフェにお食事しにきてください」
『うん、行かせてもらおうかな』
「染さん、もう寝た方がいいのでは...?朝から授業なんじゃ、」
『あ、ほんとだ。御舟とは違う科目なんだけど、そろそろ寝ておかないと...また連絡しておいで。佐藤ちゃんと話すの楽しいし』
「ありがとう、ございます」
気づけば時計の針は二時をさしていた。
私も早く寝なくてはと思いつつ、真昼のことを考えていると眠れそうになかった。
(染さんに聞いてみればよかったな...)
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