峽(はざま)

黒蝶

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第3幕

白百合の髪飾り☆

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「おはようございます」
「二人とも、『遅番』ありがとう。...それで、どうだった?」
「少し大変だったけれど、楽しかったです」
それはよかったと店長さんが笑ってくれて、私はそれだけで充分だった。
「御舟、しっかりやってくれたみたいだね」
「俺よりも千夜の方がすごかったですよ。...俺が初めてやったときより手際がよかったし」
真昼にも褒めてもらえて、今日は絶好調だなと思えた。
午後、ピークの時間にがむしゃらに働く。
「いらっしゃいませ」
「ありがとうございました」
色んな声が飛び交うなか、私は自分にできることを探していた。
「い、いらっしゃいませ」
「...いつもの席、空いてる?」
聞き覚えがあるような気がして、そっと顔をあげた。
「お疲れ様、佐藤ちゃん」
「染さん...店長さんに聞いてきますね」
こんなふうに直接会うのは久しぶりだったけれど、染さんはなんだかかっこいい服を着ているような気がする。
「佐藤、ついでだし休憩入っていいよ」
「ありがとうございます」
染さんのところに戻ると、男女問わず染さんの方をじっと見ていた。
(そっか、こういう状態になるからいつも奥の席に案内しているんだ...)
「それでは、ご案内します。そういえば、休憩していいって店長さんが言ってくれました」
そっと水を渡すと、染さんはそっかと言って爽やかな笑顔をこちらに向けてくる。
「ありがとう。それにしても、その髪飾り似合ってるな」
「あ、これは真昼が今日くれたもので...」
「そっか、余程気に入ったんだな」
どう答えればいいのか分からなくて、ただ小さく頷く。
白百合の髪飾りを汚してしまわないように気をつけてはいるけれど、途中で何度も確認してしまう。
(やっぱり、お休みの日につけてみればよかったかな...)
「そうだ、俺からもいいものあげる。...御舟と比べたら全然すごくも何ともないんだけど、よかったらもらって?」
それは、とても書き心地がよさそうなペンとノート、そして可愛らしいテディベアのキーホルダーだった。
「いいんですか?」
「ペンとノートは、御舟が使ってるメーカーのものだよ。テディベアは、俺の色違いのやつ」
染さんは大事そうに自分のテディベアを見せてくれた。
「可愛いですね...ありがとうございます」
「これくらいしかできないけど、俺は二人の仲を応援してる」
本当にいい人で、反応に困ってしまう。
髪飾りがきらきらと光って、窓に反射してうつっている。
「本当にありがとうございます」
立ちあがろうとしたとき、ぐらっと体が揺れて...
「佐藤ちゃん!」
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