峽(はざま)

黒蝶

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第3幕

大学での時間★

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「それじゃあ、行ってくる」
「うん。...いってらっしゃい」
千夜を店まで送って、そのまま大学へ向かう。
今日は忘れ物がないかしっかり確認したので大丈夫なはずだ。
「御舟君」
「おはようございます」
たしか今通りかかったのは講師だったはずだが、どこで俺の名前を知ったのだろうか。
(講義、とってないのに...)
教室に入ると、友人の姿が目にはいった。
「御舟」
「染谷、昨日は...」
「佐藤ちゃん、大丈夫だったか?」
その一言を聞いて、こいつはそういうやつだったと思い出す。
「...ああ。もう大丈夫そうだ」
「よかった。次はもっとおしゃべりできるといいな」
「業務中はやめろよ?」
「営業妨害はしない。ただ、ちょっと放っておけないなって思ってるだけだ」
染谷はそう言って立ちあがると、自分の講義に行ってしまった。
授業を受けに行こうとしたとき、スマートフォンに連絡が入っていることに気づく。
そこには、『今日の講義はお休みです』の文字。
(嘘だろ...)
「染谷」
「ん?もしかして御舟のところも?」
「今連絡がきてたのを見た」
「俺も。二人も先生休みって珍しいよな」
「そうだな」
こうしてふたりきりで話すのは久しぶりかもしれない。
「そういえば、さっきここに入る前に講師だったと思うんだけど...何故か名前を知られてた」
「それは、この前の成績がよかったからじゃないのか?...製菓とか、その他諸々の」
「そういうもんか?」
染谷は大きな溜め息を吐いた。
「もう少し自分がどれだけ目立っているのか自覚した方がいい。...本当にそういうことに執着がないんだから」
「そんなことより実力だろ?...まあ、評価してもらえるのはありがたいけど。そういうおまえこそ好成績で有名だろ」
「この話はやめよう。...佐藤ちゃん、何か病気なの?」
染谷は人をよく見ている。
質問してくるときは、高確率で確信しているときだ。
だが、俺が勝手に話すわけにはいかない。
「そういうことはあいつに直接聞け。...仮に俺が何か知っていたとしても、ここで何か言うのは違うだろ」
「本当に優しいんだな、御舟は。やっぱりいい奴だ」
「いきなり変なこと言うな」
染谷はにやにやと笑いながら、スマートフォンを手に取る。
「おい、染谷...」
「大丈夫大丈夫、佐藤ちゃんに御舟にのろけられてるって送っただけだから」
「おまえ...!」
わざと聞かずにいてくれたことなんてすぐ分かった。
俺にはただ感謝の言葉を述べることしかできなかったが、染谷は楽しそうに目を細める。
「これからバイトだろ?今日のおまえの唯一の講義、なくなったわけだし。近々また食べに行くから、そのときはまた佐藤ちゃんと話せればいいんだけどな...」
「...伝えとく。じゃあな」
「ああ」
荷物をまとめて教室を出る。
こんな時間からのバイトは、なんだか久しぶりのような気がした。
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