峽(はざま)

黒蝶

文字の大きさ
81 / 133
第3幕

どうしても聞きたくて★

しおりを挟む
「おまえ、本当に狡い...」
そのまま体を押しつけるように抱きしめる。
「真昼、くすぐったい...っ」
「染谷と何話してたか教えてくれたらこうやって耳許で話すのをやめてやる。...どうする?」
「話すことの程じゃ...ひゃっ!」
くすぐったがる千夜が少し面白くて、ついからかってしまう。
「ほら、話してみろ」
「や、やだ...」
「別に笑ったりしないから、取り敢えず話してみろって」
「もう...やめ、て」
潤んだ瞳で見つめられ、こちらが折れてしまいそうになる。
「...話したくなったか?」
「真昼の、意地悪...」
ふい、と視線を逸らされ、俺はただただ辛く感じた。
やはりからかいすぎただろうか。
「...悪かったな」
そうして、千夜から離れる。
「どうしてそんなに聞きたいの?」
「...染谷がおまえを困らせるようなことを言ってないか心配だから」
千夜は俺の方をじっと見つめてくる。
「本当に笑わない?」
「ああ、笑わない」
「...『真昼のこと、すごく好きだ』って話をしてた」
「なんでいきなりそんな話に...」
まさか、聞こえていなかった部分がそんな話だったとは思ってもみなかった。
...俺は今、どんな表情をしているのだろうか。
頬がゆるみきっているのを想像して、少しだけ気持ち悪く感じる。
「『お揃いになってよかったね』って、染さんが言ってた...」
「おまえは、その...お揃いとか好きなのか?」
千夜は小さく頷く。
「ただ、分かりやすすぎるとちょっとだけ恥ずかしくなっちゃうから、一見そうは見えないものの方がいい」
「それなら今度の休み、店に行ってみないか?」
「いいの?」
今にも飛び跳ねそうな勢いで、千夜はこちらにやってくる。
(本当に分かりやすい奴)
それだけ喜んでもらえるのは嬉しいが、どの店にするべきかかなり迷った。
「どんなところに行きたい?」
「...どこでも」
「嘘だったらくすぐり倒すぞ?」
「...」
視線を合わせてはさまよわせというのを繰り返し、思いついたように俺の方を見て真っ直ぐな言葉をぶつけてきた。
「文房具が見たい。他にも真昼が使ってるものを知りたい」
「そんなのでいいのか?」
「いいの」
あまりに綺麗に微笑むものだから、息をするのも忘れてしまいそうになる。
「っ、分かった、約束な」
「うん」
ふたりきりの場所、そっとキスを交わす。
それは決してロマンチックとは言えないものなのだろうが、そんなことはどうでもよかった。
お互いが今側にいる、それだけでいい。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

処理中です...