峽(はざま)

黒蝶

文字の大きさ
4 / 133
第1幕

演技☆

しおりを挟む
数日後、舞花とカフェへ食事に行った。
それまでは家にずっとひきこもっていた。
「ダメだよ、たまには外へ出ないと...」
「ごめん」
「あれ?千夜、チョコレート食べてきた?」
「どうして?」
「歯についちゃってるよ!お手洗い行っておいでよ!」
にかっと笑って舞花にそう言われた。
(チョコレートなんて食べてない。まさか...)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
幸いお手洗いには誰もいなかった。
鏡を見ると、本当に歯が茶色っぽくなっている。
だが、これはチョコレートではない。
実は出かける前、少しだけ吸ってきたのだ。
(こんなに飲んじゃってたんだ...次からは気をつけないと)
口を濯ぎ、お手洗いをあとにする。
席に戻ろうとすると、そこには誰かがいた。
「舞花、本当に久しぶりだよね!」
「そうだね!」
「舞花一人?」
「友だちを待ってるんだ!」
舞花は私と違って、いつも元気いっぱいではきはきしていて...友だちが沢山いる。
今日みたいに街で会って話しかけられることも少なくない。
(...邪魔したら悪いよね)
私は舞花に体調が悪くなったから帰ると連絡を入れて店を出た。
窓越しに、楽しそうに笑う舞花を見た。
「...っ」
またこの感覚だ。
早く家に帰ろう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「千夜?」
「真昼...」
真昼は私を見ると近くに駆け寄ってきてくれた。
「もう体は平気なのか?」
「うん。昨日休んだらよくなったよ」
「今から三分後、俺の家にこい。...また気を遣って飯食べずに帰ってきたんだろ?」
「...ごめん」
真昼はふっと笑って家の中に戻っていった。
いつも真昼にだけは見抜かれてしまう。
どうして分かってしまうのかは分からないけれど。
それでも、気にかけてもらえるのは何故か嬉しかった。
(真昼が好きなもの、持っていこう)
私は作っていたチョコレート菓子を持って、三分ぴったりで真昼の所へ向かった。
「...っ」
(衝動を抑える為に飴を食べておこう)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ほら、これなら食べられるだろ?」
真昼が用意してくれていたのは、沢山の具材とお茶漬けだった。
「いただきます」
スマホに目を向けると、お大事にの文字。
「その友だちって鈍感なのか?」
「...?多分敏感な方ではないと思うけど、どうして急に?」
「...いや、友だちってさ」
そのあと一瞬沈黙が流れて、真昼は一気に話してくれた。
「どっちか一方が毎回遠慮しなきゃいけないのかって思ってさ」
「私は遠慮なんて、」
「してる。それにおまえ、一人で頑張りすぎだから。誰でもいいから相談しろ。人に頼れ」
「...ありがとう」
本当にありがたいが、言えるわけない。
話してしまえば気味悪がられて、それで全て終わりだ。
だが、会ってこうして一緒に食事をするとき、大抵真昼には頼れと言われてしまう。
...言ってしまってもいいのだろうか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「...はあ」
自宅に戻った瞬間、ぷつりと何かが切れたように刃物を探す。
『普通』というのは、一番難しいのだ。
本当に、酷く疲れる。
喉が渇いたので、それを潤す為に包丁を体に当てる。
...どうすればいいんだろう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

処理中です...