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第25話
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「八坂さん、ちょっと子猫のお世話を任せてもいいかな?今のうちにこの前保護した子の様子を見ておきたいんだ」
お客さんがいない状態で店長さんに子猫たちを頼まれるのは珍しいことじゃない。
ふたつ返事で引き受けて子猫たちにご飯をあげていると、いつの間にかお客さんがやってきていた。
「【いらっしゃいませ】」
一応手話でやってみたものの、やっぱり相手には届かない。
メモでやりとりすれば伝わるだろうか。
「【いらっしゃいませ】」
「あ、ああ…」
「ちょっと借りるね」
いきなりメモ帳とペンを取られて呆然と立ち尽くしていると、すごい筆圧で文字が書かれて返ってきた。
「【飲み物と猫の餌のコースふたり分お願いできます?】」
「…【学生証はお持ちですか?】」
「学生証?あ、これか」
見せられたものを確認してレジに金額を打ちこむ。
「【ありがとうございます。2200円になります。こちらの注意事項をご確認いただきますようお願いいたします】」
「ありがと!」
ギャルっぽい格好のカップルらしきふたり組がメロンソーダフロートを注文したので作っていると、会話が聞こえてきた。
「ああいう店員が接客ってやばくね?どうやって会話すればいいんだよ…」
「はあ?何言ってんの?耳が聞こえない人もいるでしょ。あたしの話通じてたし、それでいいじゃん」
声が出ないだけの症状があるなんて、普通の人たちは考えない。
だからこんなふうに耳が聴こえないと思われて、好き勝手言われてしまう。
だけどきっと、耳が聞こえない人たちの中には私より読唇が上手い人もいる。
私なんかより辛い思いをしている人たちだって沢山いるはずだ。
「…【お待たせしました】」
「ありがと」
持っていた付箋に書いて渡すと、筆圧強めだった女子高生がにっこり笑って一礼した。
「八坂、シャンプーの詰め替えってその辺りになかったか?」
「【さっき店長さんが詰め替えているみたいでした。在庫はこのノートにメモしてあります】」
「そうか。ありがとう、いつもマメで助かってるよ」
先輩との会話にカップルはぎくりとしている。
気にしていても仕方ないので、子猫たちのお世話に戻ることにした。
にゃあにゃあと可愛く鳴くその子は、保護した時点で右耳が欠けていたらしい。
「……」
名前を呼ぶことさえできないのに、他の子猫たちとは違ってはじめから懐かれていた。
こゆきという名前がつけられたその子のお世話をしていたら、蓋をしていたものが溢れ出る。
こゆきはきょとんと首を傾げた後、指をぺろぺろなめて慰めてくれた。
「八坂さん、こゆきのお世話終わった?」
慌てて涙をひっこめて、一旦店長さんにこゆきを見せる。
「ありがとう。しばらくこゆきのお世話は八坂さんメインでお願いしたいと思っているんだけど、いいかな?」
その言葉にただ首を縦にふる。
私はこの子たちに…特にこゆきに救われているから。
お客さんがいない状態で店長さんに子猫たちを頼まれるのは珍しいことじゃない。
ふたつ返事で引き受けて子猫たちにご飯をあげていると、いつの間にかお客さんがやってきていた。
「【いらっしゃいませ】」
一応手話でやってみたものの、やっぱり相手には届かない。
メモでやりとりすれば伝わるだろうか。
「【いらっしゃいませ】」
「あ、ああ…」
「ちょっと借りるね」
いきなりメモ帳とペンを取られて呆然と立ち尽くしていると、すごい筆圧で文字が書かれて返ってきた。
「【飲み物と猫の餌のコースふたり分お願いできます?】」
「…【学生証はお持ちですか?】」
「学生証?あ、これか」
見せられたものを確認してレジに金額を打ちこむ。
「【ありがとうございます。2200円になります。こちらの注意事項をご確認いただきますようお願いいたします】」
「ありがと!」
ギャルっぽい格好のカップルらしきふたり組がメロンソーダフロートを注文したので作っていると、会話が聞こえてきた。
「ああいう店員が接客ってやばくね?どうやって会話すればいいんだよ…」
「はあ?何言ってんの?耳が聞こえない人もいるでしょ。あたしの話通じてたし、それでいいじゃん」
声が出ないだけの症状があるなんて、普通の人たちは考えない。
だからこんなふうに耳が聴こえないと思われて、好き勝手言われてしまう。
だけどきっと、耳が聞こえない人たちの中には私より読唇が上手い人もいる。
私なんかより辛い思いをしている人たちだって沢山いるはずだ。
「…【お待たせしました】」
「ありがと」
持っていた付箋に書いて渡すと、筆圧強めだった女子高生がにっこり笑って一礼した。
「八坂、シャンプーの詰め替えってその辺りになかったか?」
「【さっき店長さんが詰め替えているみたいでした。在庫はこのノートにメモしてあります】」
「そうか。ありがとう、いつもマメで助かってるよ」
先輩との会話にカップルはぎくりとしている。
気にしていても仕方ないので、子猫たちのお世話に戻ることにした。
にゃあにゃあと可愛く鳴くその子は、保護した時点で右耳が欠けていたらしい。
「……」
名前を呼ぶことさえできないのに、他の子猫たちとは違ってはじめから懐かれていた。
こゆきという名前がつけられたその子のお世話をしていたら、蓋をしていたものが溢れ出る。
こゆきはきょとんと首を傾げた後、指をぺろぺろなめて慰めてくれた。
「八坂さん、こゆきのお世話終わった?」
慌てて涙をひっこめて、一旦店長さんにこゆきを見せる。
「ありがとう。しばらくこゆきのお世話は八坂さんメインでお願いしたいと思っているんだけど、いいかな?」
その言葉にただ首を縦にふる。
私はこの子たちに…特にこゆきに救われているから。
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