路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

文字の大きさ
120 / 220
Until the day when I get engaged. -Of light, ahead of it...-

第80話

しおりを挟む
ー**ー
俺の思考は少し止まった。
メルが一緒にお風呂にと言ってきたのは久しぶりだった。
「え、あ、うん。俺はいいけど...」
「本当ですか⁉」
メルの眼はキラキラとしている。
こんな眼で見られて断れる人間が、この世界に果たして何人いるだろうか。
恐らく誰もいないだろう。
「うん」
「ありがとうございます!」
メルはいつものように、にこにこしている。
(いきなり街を離れたのに、不安じゃないはずないよな)
「今日はどの入浴剤を入れようか」
「オレンジでしょうか?それともミルク...うーん...どれにするか迷います」
「じゃあオレンジにしようか」
「はい!」
たしかオレンジ...柑橘類の香りにはリラックス効果があったはずだ。
俺はその知識が間違っていないことを祈りながら、入浴剤を入れた。
「先に身体を洗った方がいいと思うから、メルが身体を洗ったら呼んでね」
「はい!」
メルは嬉しそうにパタパタとバスルームへと向かった。
その間に、俺は暫く使うことになるであろうベッドルームに向かった。
(今俺がメルにできることはなんだろう?)
ー*ー
私は体を洗い終え、とてもいい香りがする湯船へとはいった。
「ふぅ...」
私は暫くちゃぷちゃぷとお湯で遊んで、それからカムイを呼んだ。
「カムイー!」
ドタドタと足音が聞こえてくる。
それは間違いなくカムイの足音で。
私はそっと湯船のなかでタオルを体に巻いた。
「お待たせ」
「カムイ!」
カムイはにこりと笑って、体を洗いはじめた。
(やっぱりかっこいいです...)
思わずじっと見つめていたそのとき、カムイが恥ずかしそうに言った。
「俺が体を洗ってるところ...そんなに凝視しないで?」
ー**ー
「...!ごめんなさい!」
「いや、別に怒ってはないから...」
メルに凝視されるというのは、なれていない。
ただそれだけなのだ。
別に他の奴等にどう思われても平気だ。
だが、メルだけは別だ。
メルの前ではかっこ悪い所を見せたくない。
「メル、湯加減はどうかな?」
「丁度です。とっても気持ちいいです...」
「それはよかった」
メルのほっとした表情を見て、少し安心した。
但し、肩の傷痕は見逃さなかった。
「やっぱり痕になっちゃったね...。ごめん」
俺はそっとメルの肩に手をのばす。
そっと触れると、メルの身体が少しだけぴくりとはねた。
「...っ、いえ、痕になったとしても...カムイがちゃんと治療してくれたから、それで充分なんです。ありがとうございます」
メルはまた、いつものようににこにこしていた。
裏表のないメルのこういう一言一言に、俺は何度救われただろう。
「メル、俺も入っていいかな?」
「はい!」
メルはそっと右に避けてくれる。
なんだかどんどん綺麗になっていくメルを見て、俺は理性を保てるか心配になってくる。
恐らく大丈夫なはずだ...いや、大丈夫だ!
自分にそう言い聞かせつつ、実は気が気でない。
「メル、水鉄砲って知ってる?」
「いえ、分かりません」
「...えいっ」
ぱしゃ、とメルの頬めがけて一発軽めに打った。
「く、くすぐったいです」
「メルもやってみる?」
「はい!」
「手をこうして...」
俺の説明を真面目に聞いてくれるメルが、とてつもなく愛しく感じた。
ー*ー
お風呂からあがると、私はベッドがあるお部屋に行ってみた。
そこでノートがあることに気づいた。
《メル
不安にさせてごめん。
でも、メルを危険な目には絶対に遭わせたりしないから心配しないで。
俺も、メルが悲しむようなことはしないって約束する。
だから...全部片づいたら、また一緒に住んでくれる?》
(カムイ...)
そんなことを考えていてくれていたなんて、全く気づかなかった。
でも、私は...。
色々と考えながら、ノートに返信を書いた。
ー**ー
俺が出たときには、メルは既に眠ってしまっていた。
ふとノートを見る。
《カムイ
カムイが私を気遣ってくださるのはとても嬉しいです。
でも、私はカムイのお手伝いをしたいんです。
待ってるだけじゃ、イヤなんです。
全部をおしまいにするお手伝いをさせてください。
また一人で背負わないでください》
「...メル」
またこうして、俺の心を奪っていく。
メルには、敵わない。
(たしかにメルを一人にするのは危険だ。だが、情報を集めるにはあそこへ行くしか...)
メルを連れていきたくない。
だが、俺は決めた。
メルを連れていくことを。
逃げていたのは俺の方だったのかもしれないと思った。
守る自信がないからと、メルを置いていこうとした。
だが、俺は...
(今度こそ、全てを守る!)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あれえ?ここじゃなかったの?」
「俺はここで手当てをしてもらって...」
男が二人、ある場所の前に立っていた。
「...役立たずはお片づけだあ!」
「うわあああああああああ!」
その日の夜、ある男が殺された。
その遺体は翌日箱に詰められ、見事に『お片づけ』された状態で発見された。
しおりを挟む
感想 76

あなたにおすすめの小説

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

差し出された毒杯

しろねこ。
恋愛
深い森の中。 一人のお姫様が王妃より毒杯を授けられる。 「あなたのその表情が見たかった」 毒を飲んだことにより、少女の顔は苦悶に満ちた表情となる。 王妃は少女の美しさが妬ましかった。 そこで命を落としたとされる少女を助けるは一人の王子。 スラリとした体型の美しい王子、ではなく、体格の良い少し脳筋気味な王子。 お供をするは、吊り目で小柄な見た目も中身も猫のように気まぐれな従者。 か○みよ、○がみ…ではないけれど、毒と美しさに翻弄される女性と立ち向かうお姫様なお話。 ハピエン大好き、自己満、ご都合主義な作者による作品です。 同名キャラで複数の作品を書いています。 立場やシチュエーションがちょっと違ったり、サブキャラがメインとなるストーリーをなどを書いています。 ところどころリンクもしています。 ※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿しています!

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

処理中です...