路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

文字の大きさ
219 / 220
Other Story(記念ものが多いです。本篇ネタバレはできるだけ避けます)

Merry,Merry, Christmas!(当日篇)

しおりを挟む
ー*ー
当日。
カムイの指示通りにケーキを作っていると、切り株のような形をしたものができあがった。
「カムイ、これは一体なんですか?」
「ああ、それはブッシュ・ド・ノエルっていうんだ。去年は色々あって作れなかったもんね」
「そう、ですね...」
(去年は拐われてしまって...)
思い出すと、また怖くなってきてしまう。
「大丈夫だよ。もうあんな思いは絶対にさせないって誓うから」
「カムイ...ありがとうございます!」
今はカムイがずっと側にいてくれる。
そう思うと、不思議と怖くなくなっていく。
「できました!」
チキンにブッシュ・ド・ノエル、いつもより豪華な紅茶...クリスマスツリーも飾りつけした時より光って見える。
「カムイはやっぱりお料理が上手ですね」
「...っ」
「カムイ...?」
ふと顔をあげると、カムイの瞳からはぽたぽたと涙が零れ落ちていた。
「どうしたんですか?もしかして傷が痛んで、」
「違う...違うんだ。ごめん...」
(急にどうしたんでしょう...?)
ー**ー
準備をしていた時から、実は涙を堪えていた。
懐かしくて、それでいて...思い出すとやはり辛い。
(あの頃は、近くに両親がいるのが当たり前で、いなくなるなんて思ってなかった)
「私でよければ、力にならせてください」
「メル...?」
「守られてばかりじゃなくて、私もカムイを守りたいんです」
(メルになら、話してもいいかもしれない)
「昔のことを、思い出しちゃったんだ」
「...ご両親のことですか?」
「うん」
『カムイはやっぱりお料理が上手ね』
『そうかな?』
『そうよ』
そう言って笑っていた母の顔を思い出す。
明日がくると、そう信じていた。
だが、無情にも平凡な日はこなかった。
「とっても優しいご両親だったんですね」
「...うん」
「それならきっと...カムイが毎日一生懸命な所も、きっとちゃんと視てくれているのではないでしょうか?」
「え?」
「死んでしまった人にはもう会えませんが、きっとどこかでカムイを心配してくださっているのではないかと思うんです」
メルらしい発想だ。
...俺にはできない考えだ。
「だから、これから幸せになることを一緒に考えましょう?」
「...メル」
「カムイは、今のままでいいんだと思います」
そう言ってメルはいつものようにふわふわと笑っていた。
...どうしてメルは、いつも俺が欲しいと思った言葉をくれるんだろうか。
(敵わないな、メルには)
「ありがとう」
その頃には涙はすっかり止まっていて、今度は俺の番だと思った。
「どうしてメルはそわそわしているの?」
ー*ー
カムイに気づかれてしまった。
「えっと、それは...」
「さっきのとは別の理由もあるんだよね?」
どうしてこの人には分かってしまうんだろう。
「おばあさまのことを、思い出していたんです」
「何か思い出があるの?」
「はい。私の家ではごちそうはありませんでしたし、こんなに立派なツリーも勿論ありませんでした。でも、いつもおばあさまが何かプレゼントを買ってきてくださって...」
「メル」
カムイに名前を呼ばれて、そのまま勢いよくぎゅっと抱きしめられる。
「そんな顔しないで。...俺が側にいて、いつだって一緒に考えるから。ちゃんとメルを守るから。だから...我慢しなくていいんだよ」
「...っ」
私はそのまま泣いてしまった。
寒かった日々を思い出して。
カムイのぬくもりに触れて。
...今の時間が決して当たり前じゃないことを理解して。
「カムイ...このまま、ぎゅってしていてもらっても...っ、いいですか?」
「勿論。メルが不安になったら何回だって俺がこうして支えるから」
ー**ー
本当は、傷が痛い。
すぐに横になりたいほど、酷く痛む。
だが、メルの不安がなくなるまではこうしていたい。
(今までのことを思い出して泣いているんだろうな)
そしてこの時間が当然のように訪れるものではないことを、俺たち二人は知っている。
だから、今を大切にしたい。
ずっと大切にして生きていきたい。
「...っ」
メルの髪に触れると、ぴくりと体が反応する。
だが、嫌がっている様子はないので俺はそのまま頭を撫でた。
「カムイ...いなくならないでくださいね?」
「それはこっちの台詞だよ」
俺たちは笑いあう。
ロマンチックとは程遠いものになってしまったが、これが俺たちの愛の形だ。
(人前であんなに泣いたのはいつ以来だろう?)
「俺がメルを守るよ」
「それなら私がカムイを守ります」
窓の外は、雪景色。
真っ白な世界に埋もれながら、俺たちはそっとキスを交わした。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
読者様方、こんばんは。
ごめんなさい。
切ないというよりは、シリアスに近いものになってしまいました...。
書いているうちに、こんなはずじゃなかったと思いつつ、もう修正のしようがなかった為このままいかせていただきました。
ギリギリセーフ、でしょうか?
読者様方もどうか楽しい聖夜をお過ごしください。
しおりを挟む
感想 76

あなたにおすすめの小説

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

差し出された毒杯

しろねこ。
恋愛
深い森の中。 一人のお姫様が王妃より毒杯を授けられる。 「あなたのその表情が見たかった」 毒を飲んだことにより、少女の顔は苦悶に満ちた表情となる。 王妃は少女の美しさが妬ましかった。 そこで命を落としたとされる少女を助けるは一人の王子。 スラリとした体型の美しい王子、ではなく、体格の良い少し脳筋気味な王子。 お供をするは、吊り目で小柄な見た目も中身も猫のように気まぐれな従者。 か○みよ、○がみ…ではないけれど、毒と美しさに翻弄される女性と立ち向かうお姫様なお話。 ハピエン大好き、自己満、ご都合主義な作者による作品です。 同名キャラで複数の作品を書いています。 立場やシチュエーションがちょっと違ったり、サブキャラがメインとなるストーリーをなどを書いています。 ところどころリンクもしています。 ※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿しています!

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

処理中です...