約束のスピカ

黒蝶

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約束のスピカ

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「ねえ、先生。どうしてカラスの羽が黒いか知ってる?」
「決まっていたからじゃないのか?」
「からす座の話が本当なら、元々カラスの羽って綺麗な色をしていたみたいだよ」
いつものように星座に関する話をしてくれる流山は、一等星のような明るさを持っている。
「…ごめん。またぺらぺらと喋っちゃった」
「本当に好きなんだな」
「え?」
ぱっと顔をあげた流山にただ思ったことをぶつける。
「大切に思っていないと、そんなふうにすらすら言葉が出てこない。星物語に関してはおまえの方が先生だな」
「…べ、別に褒められても何も出ないよ」
「そんなつもりで言ってない。…食べるか?」
キューブ型のキャラメルを渡すと、無言で食べはじめる。
好みではなかったのかもしれないと思っていたが杞憂だったようだ。
「あ、美味しい」
一粒を噛みしめているのか、流山は口を動かしては小さく笑みをこぼす。
本人が自覚しているかはさておき、俺は無意識のうちに流山の頭に手を伸ばしていた。
「……!」
怯えるように目を閉じられ、そのまま頭にできるだけ力を弱めに手を置く。
わしわしと撫でると、流山は少し戸惑ったようにこちらを見つめた。
「先生、僕のこと怒らないの?」
「怒らないよ。余程のことがない限りは」
「そう、なんだ」
本気で不思議に思っている様子に、学園内や家庭環境がどれだけ酷いものなのか理解する。
自分の感覚が麻痺してしまうほど苦しい思いをしているなんて、それほど悲しいことが他にあるだろうか。
「…ねえ、先生。また明日も来ていい?」
「望遠鏡の準備はしておく」
本来なら明日は学校そのものが休みで部活動も原則提示になるので、教師や生徒が来ることはほぼないだろう。
だからこそいいのかもしれない。
俺はここにからいつでもいるが、普通の人間はそういうわけではないから申し訳なさそうにしているんだろう。
「丁度退屈だったんだが、流山が来るなら少しは忙しくなりそうだ」
「忙しくなるのに嬉しいの?」
「予定がなかったからな」
「…僕といてもつまらないのに」
「俺は別にそういうことは気にしてない。だがまあ、強いて言うなら…今この瞬間だって楽しいよ」
目の前の少年は驚いた顔をしていたが、その表情は柔らかい光を放つ月のように穏やかなものへと変わっていった。
「…僕にとっては──」
「ん?」
突風で聞き取れなかった言葉を聞こうとしたが、流山は苦笑しながら望遠鏡を指さす。
「ううん、なんでもない。そろそろ片づけないと怒られちゃうね」
「そうだな」
流山に促されるような形で片づけ、校門まで見送る。
所謂視える人でも見つけられないような部屋で過ごす俺に、これだけ楽しく過ごせる日がくるとは思っていなかった。
明日はいつもより早起きしようと決め、そのまま布団に入る。
……このときの俺は知らなかったのだ。
風にかき消された言葉を聞き返せばよかったと後悔する日がくることを。
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