約束のスピカ

黒蝶

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約束のスピカ

7頁目

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食べ終わるのを見守ってから、弁当箱を回収する。
誰かの為に作るなんて経験は初めてだったが、食べてもらえるとこんなに嬉しくなるものなのか。
「ごちそうさまでした。先生、コックさんになれそうだね」
「そこまでじゃない。けどまあ…本当にそう思ってるなら、また作りすぎたときに食べてくれるか?」
「本当に美味しかったから、たまにならいいよ」
素直じゃない言い方をされても口元に浮かんだ笑みまでは消せない。
「それじゃあ、また明日」
「ああ。また」
帰っていく流山の背中を見送った直後、背後で感じたことがない気配がする。
「……悪いがあいつは追わせない」
手にグローブをはめると同時に巨大な塊のようなものが飛びかかってきた。
《あれ、美味ソウ!食ベル!》
「おまえごときにやるはずないだろ」
俺が護りたいのは当然食べる為ではない。
……なんとなく昔の自分を見ているような気がして放っておけないだけだ。
それに、今の時代生きている人間がひとり消えただけでも騒ぎになる。
糸で吊るしあげると、小物は砂のように散っていった。
《…流石ね》
「いたのか」
《坊やと楽しそうに話しているから出ていけなかったのよ》
黒猫はその場で1回転して、猫耳少女の姿に変わる。
その場に着地するなり真っ直ぐ俺を指さした。
「あまり仲良くしすぎない方がいいって話はしたはずよ。あっちは短命だし、どうせすぐ忘れちゃうんだから」
「忘れられることを恐れているならこの仕事には就いてない」
「それもそうね。けど…私たち妖とは体の構造も違うし、本来であれば交わらない存在だってことを忘れないようにね」
「頭に入れておく。最近物騒だから恋愛電話を気をつけておけよ、後輩」
「誰が後輩よ」
そう言い残して人間形態のまま去っていく。
俺たちは人間ではない。
そのうえ、普通の妖たちとも少し異なる存在だ。
生まれたときから生粋の妖だった俺は、なんとか人間に溶けこんで生活している。
そのために必要だったのが教師という職で、それは幼い頃からの憧れだった。
【僕、先生みたいになるよ】
【あなたならきっとなれるわ、──】
もうずいぶん古い記憶だが、はっきりと覚えている。
誰もいなくなった部屋、再び日記帳の頁を開く。
【午後雨が降るが、夜には晴れる】
「…随分嬉しい内容だな」
何食わぬ顔で旧校舎を出ると、生徒たちに挨拶される。
ひとりひとりに返してそのまま職員室へ向かう途中、すれ違う生徒たちからある話が聞こえてきた。
「ねえ、知ってる?未来予知日記の噂!」
「知ってる!書いてあることが本当になるんだよね!?」
「もし恋愛電話を使った結果が分かったらどうする?」
「読みたい!けど、どこにあるんだろうね…」
怪異というものは噂が消失してしまえばそこで終わる。
…俺が前任者から預かったこの日記も同じだ。


──居所が分からない、未来予知日記。
見つけた人間が見た頁に書かれていることはほぼ確実に起こるらしい。
ただし、日記を開くには管理人の権限が必要で、無理矢理開けたり日記に悪いことをしたら不幸が倍になって戻ってくる。


「おはようございます」
「ああ…おはようございます、副校長」
日記の噂がそこそこ広まっているなら問題ない。
俺は力が欲しいわけではないのだから。
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