約束のスピカ

黒蝶

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約束のスピカ

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「またここにいたのか」
「また先生に見つかった。…放っておいてくれればいいのに」
「それは無理だ」
いつもより若干苦い顔をしている理由を知りたいが、尋ねたところで教えてもらえるだろうか。
「今日は数学と生物を中心に、」
「……嫌だ」
「生物はこれならいけるか確認してほしいだけだ。地理分野はそれほど苦手じゃなかったよな?」
「急に社会科目をやるの?」
「時々文系教科も入れた方がいいだろ?」
「そうだね。あんまり好きじゃないけど、頑張る」
絶望した表情で話すところを見ると、本当に生物のリアルな図形や模型が苦手らしい。
「まずはこれだ」
表面を見せると、両手で顔を覆って俯いてしまった。
イラストにしただけなのだが、それでも無理らしい。
「これも駄目か」
「先生、なんでそんなにリアルに描くの?」
「そんなつもりはなかったんだが…次はこれだ」
簡単な図形を組み合わせた図と説明文。
流山は顔をあげ、じっと見て呟いた。
「これなら我慢できる。…5分くらいは」
「5分あれば解けそうか?」
「多分」
「分かった。次のテストは俺が担当だからこの方式で出す」
そういえば、テスト勉強はしているのだろうか。
毎夜旧校舎に忍びこんで空を見ているにも関わらず、中間テストの順位も上位5位以内に入っていた。
「先生、どうしたの?」
「悪い。なんでもない」
「そういえば、近々流星群が見られるらしいな」
「え、それ本当!?」
縮こまっていた先程までとは違い、瞳に希望を宿して真っ直ぐこちらを見つめる姿は少年と呼べるものだった。
興奮した様子に思わず笑ってしまう。
「…ごめん、子どもっぽかったよね」
「別にいいと思う。それだけ星が好きなんだろ?」
「星は好き。見ているときらきらしてるから。そこにこめられた物語にも色々な思いがあって…そういうところが好き」
初めて知った。というより、自分のことを話してくれたことそれ自体が初めてかもしれない。
「…また星物語を教えてくれるか?」
「星の話だけは先生でいるって約束だから…。七夕に由来する話をしようかな」
「ああ。楽しみにしてる」
立ちあがった瞬間、ポケットからいつもはめている手袋が落ちてしまった。
できるだけ誰にも見られないよう気をつけていたのに、少し気が緩んでいたのかもしれない。
「先生、それ…先生にとって大切なものなんだね」
「え?…ああ、まあ、一応」
見た人間からは、古くさいだとか汚いとか嘲笑われることばかりだった。
流山は馬鹿にすることなく拾って手渡してくれる。
「それだけ大切にされるのって、ちょっと羨ましいな」
「それなら、おまえから大切に思われているものは幸せだな」
「どうして?」
「流山が心優しいから」
手をふって教室を後にする。
しっかり食べることと書き残したメモと弁当箱は受け取ってもらえただろうか。
誰にも知られずもう少し流山に近づきたい。
…そうすればきっと、救える道を見つけられるだろうから。
「室星先生、少しよろしいですか?」
「授業前なので少しだったら大丈夫です」
話しかけてきたのは、惜しくも特進クラスに入るのを逃した生徒たちがいる選抜クラス担当の教師。
俺のことをよく思っていないことも知っているので、できるだけ早く話を切り上げたかった。
だが、その思いは一瞬で崩れ去る。
「どうもうちのクラスの生徒が先生のクラスの流山瞬とトラブルになったようなんです。放課後話し合いの場に同席していただくことは可能ですか?」
……嫌な予感しかしなかった。
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