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約束のスピカ
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「流山」
帰りのホームルームが終わったところで、呼び止めたくない気持ちを抑えて話しかける。
「今から会議室に来てほしい」
「……」
流山は黙ったまま頷く。
手が震えていて、これから何がおこるか予想しているように見えた。
「流山君、逃げずに来てくれてありがとう。今日はうちのクラスの生徒とのじゃれあいについて教えてほしいんだ」
「……じゃれあい?」
俺は思わず聞き返してしまった。
この教師は自分のクラスのことしか考えていない。
「何名かからいじめに該当するであろう行為があると話を聞いていますが」
「……!」
流山は俺が何も知らないと思っていたらしく、驚いた顔でこちらを見る。
大丈夫だと目配せしてそのまま話を続けた。
「うちのクラスの生徒から、放課後に呼び出されて蹴られているところを見たと聞きました。
先生のクラスの生徒からも同じような声があがっています」
「証拠はあるんですか?」
「流山の怪我は毎日増えています。それも、下校時間に会う度。俺はそんなことにも気づけないほど間抜けじゃない。
怪我の写真を撮らせてもらっていますが、それを見せた方がいいですか?」
今の話は嘘で本当だ。
放課後会う度に傷が増えているのは隣のクラスの奴らの仕業だろう。
だが、流石に未成年が煙草を吸っていれば学園に噂が広まるはずだ。
「流山君、遊び程度のことだったんでしょ?」
「えっ、と」
「そうよね?悪ふざけでたまたま怪我をしただけなのよね?」
目の前の愚者は焦りはじめた。
自分のクラスの生徒たちから何も聞かなかったのか。
そもそも、体にこれだけ包帯を巻いている生徒がいれば、ただの遊び程度なはずないだろう。
「とにかく!喧嘩なら自分たちで仲直りしてね」
「ちょっと待ってください。何故被害者から歩み寄り、被害者が謝罪しなければならないんですか?
生徒たちに悪いことをしたと自覚をもたせるなら、せめて謝罪は加害者側から来るのが普通では、」
「校長先生に呼ばれているので失礼します!」
向こうから呼び出しておいて不利になると逃げる。
なんて腐った人間だろう。
ふと隣に座る流山を見ると、足の上で拳を作り震えていた。
まだ証言だけで動くことはできないが、今できるのはこれしかない。
「先生…」
「ちゃんと助けられなくて悪かった。怖かっただろ」
「いつから知ってたの?」
「だいぶ前、おまえが保健室から逃げたとき」
ぽたぽたと零れ落ちる涙を前に自らの無力を痛感する。
握られた拳に手を添えることはできても、それ以上のことは何もしてやれない。
「どうして何も訊かずにいてくれたの?」
「答えづらいことだと思ったからだ。加害者には罰を与える。必ず」
「そんなの、なんていい。だから…」
今夜も学校にいてほしいと流山は掠れた声で言った。
小さく頷くと、ほっとしたような顔をしてそのまま教室を出ていく。
学園内でも家庭内でも流山は常に孤独を抱えているのかもしれない。
「…早く設立しないとな」
副校長とある話を進めているのだが、頭の固い教師たちを黙らせるのに時間がかかっていると申し訳なさそうに告げられた。
自分でも調べながら信じて待つ、それが今の俺にできる最大限のことだ。
──その夜、いつもより遅い時間になって流山は現れた。
帰りのホームルームが終わったところで、呼び止めたくない気持ちを抑えて話しかける。
「今から会議室に来てほしい」
「……」
流山は黙ったまま頷く。
手が震えていて、これから何がおこるか予想しているように見えた。
「流山君、逃げずに来てくれてありがとう。今日はうちのクラスの生徒とのじゃれあいについて教えてほしいんだ」
「……じゃれあい?」
俺は思わず聞き返してしまった。
この教師は自分のクラスのことしか考えていない。
「何名かからいじめに該当するであろう行為があると話を聞いていますが」
「……!」
流山は俺が何も知らないと思っていたらしく、驚いた顔でこちらを見る。
大丈夫だと目配せしてそのまま話を続けた。
「うちのクラスの生徒から、放課後に呼び出されて蹴られているところを見たと聞きました。
先生のクラスの生徒からも同じような声があがっています」
「証拠はあるんですか?」
「流山の怪我は毎日増えています。それも、下校時間に会う度。俺はそんなことにも気づけないほど間抜けじゃない。
怪我の写真を撮らせてもらっていますが、それを見せた方がいいですか?」
今の話は嘘で本当だ。
放課後会う度に傷が増えているのは隣のクラスの奴らの仕業だろう。
だが、流石に未成年が煙草を吸っていれば学園に噂が広まるはずだ。
「流山君、遊び程度のことだったんでしょ?」
「えっ、と」
「そうよね?悪ふざけでたまたま怪我をしただけなのよね?」
目の前の愚者は焦りはじめた。
自分のクラスの生徒たちから何も聞かなかったのか。
そもそも、体にこれだけ包帯を巻いている生徒がいれば、ただの遊び程度なはずないだろう。
「とにかく!喧嘩なら自分たちで仲直りしてね」
「ちょっと待ってください。何故被害者から歩み寄り、被害者が謝罪しなければならないんですか?
生徒たちに悪いことをしたと自覚をもたせるなら、せめて謝罪は加害者側から来るのが普通では、」
「校長先生に呼ばれているので失礼します!」
向こうから呼び出しておいて不利になると逃げる。
なんて腐った人間だろう。
ふと隣に座る流山を見ると、足の上で拳を作り震えていた。
まだ証言だけで動くことはできないが、今できるのはこれしかない。
「先生…」
「ちゃんと助けられなくて悪かった。怖かっただろ」
「いつから知ってたの?」
「だいぶ前、おまえが保健室から逃げたとき」
ぽたぽたと零れ落ちる涙を前に自らの無力を痛感する。
握られた拳に手を添えることはできても、それ以上のことは何もしてやれない。
「どうして何も訊かずにいてくれたの?」
「答えづらいことだと思ったからだ。加害者には罰を与える。必ず」
「そんなの、なんていい。だから…」
今夜も学校にいてほしいと流山は掠れた声で言った。
小さく頷くと、ほっとしたような顔をしてそのまま教室を出ていく。
学園内でも家庭内でも流山は常に孤独を抱えているのかもしれない。
「…早く設立しないとな」
副校長とある話を進めているのだが、頭の固い教師たちを黙らせるのに時間がかかっていると申し訳なさそうに告げられた。
自分でも調べながら信じて待つ、それが今の俺にできる最大限のことだ。
──その夜、いつもより遅い時間になって流山は現れた。
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