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約束のスピカ
12頁目
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夕暮れ時の教室、いつものようにひとり佇む生徒に声をかける。
「授業、ちゃんと来てくれてよかった」
「先生は他の先生みたいなこと言わないから」
授業に出ても出なくても嫌味を言われるなら、流山が生きるうえで楽しめる方を選んでほしい。
今日は珍しく傷が増えていないのは、アンケートの効果だろうか。
ただ、消毒をしておかないと不安だからと包帯を外させてもらった。
「…ほら、できたぞ」
「あ、うん」
なんだか様子がおかしい。
目を合わせようとしない流山を見ていてはたと気づいた。
「…今日は持ってないのか?」
「え?」
「図鑑。いつも大事にしてたろ」
ぼろぼろになるほど何度も読み返した跡があり、ひとりでいるとき何度も楽しそうに読んでいたのを見かけたことがある。
それを何故今日だけ持っていないのか。
「……忘れた」
「隠すな」
嘘を吐いているというより、何かを隠したがっているように見える。
誤魔化すのが下手なのは流山本人も自覚しているのかもしれない。
じっと見つめていると、今にも泣き出しそうな表情で鞄から何かを取り出した。
「…壊れちゃった」
「そうか。じゃあ夜までに直しておく」
「え?」
流山の手に握られた見るも無残な姿の図鑑を半ば強引に受け取った。
頁が破られ、背表紙はカッターナイフのようなものでずたずたに切られた形跡が見られる。
「あと2時間くらいしかないよ?」
「2時間あるなら充分だ。必ず終わらせる」
半信半疑といった様子の流山を見送り、すぐさま自前の糸で縫い合わせていく。
頁を綺麗に直すことは難しいが、千切れかけている背表紙くらいは直せるだろう。
《またあの子を構ってたの?》
「盗み見とはいい趣味だな」
《なんであの子にそんなに肩入れしてるの?》
「…さあな」
昔の自分に似ているから、なんて言えなかった。
俺の場合は母親が人間たちの罠によって亡くなり、ひとりで暮らしてきたが…何故人間はそこまでして争うのだろうか。
《その糸、あの子に視えたらどうするの?》
「そのときはそのときだ」
普通の人間には視えない、妖が生み出した糸。
母親からは誰とでも仲良くなれる魔法の糸だと言われたが、俺はそうは思わない。
…この糸が原因で母が追い詰められることになったのだから。
「そろそろ時間だからもう行く」
《…気をつけなさい。最近おかしな噂が流行っているから》
「調べてみてはいるんだが、得体が知れないと気味が悪いな」
黒猫は大きなため息を吐いてその場から去っていった。
…そういえば、流山の家族はどういう人物なのだろうか。
血の繋がりがない父親とその男を溺愛する母親…誰も子どものことを見ていないのかもしれない。
そもそも毎晩家を抜け出して気づかれないというのは異常だ。
共働きだとしてもそんなに気づかないものだろうか。
「…お待たせ」
相変わらず表情を崩さない流山だが、今夜は流石にそわそわしている。
そんな少年に製本し直した図鑑を渡すと、ぱっと目を輝かせた。
「これ、本当に先生がやったの?」
「ああ。俺に直せるのはここまでだったが」
「充分だよ。本当にありがとう。…僕の1番大切な宝物なんだ」
にこりと笑う姿に安堵したが、その表情は一瞬で崩れてしまう。
「…今の家の人たちには新しいのを買ってほしいなんて言えないし、これは世界にひとつだけのものだから」
「授業、ちゃんと来てくれてよかった」
「先生は他の先生みたいなこと言わないから」
授業に出ても出なくても嫌味を言われるなら、流山が生きるうえで楽しめる方を選んでほしい。
今日は珍しく傷が増えていないのは、アンケートの効果だろうか。
ただ、消毒をしておかないと不安だからと包帯を外させてもらった。
「…ほら、できたぞ」
「あ、うん」
なんだか様子がおかしい。
目を合わせようとしない流山を見ていてはたと気づいた。
「…今日は持ってないのか?」
「え?」
「図鑑。いつも大事にしてたろ」
ぼろぼろになるほど何度も読み返した跡があり、ひとりでいるとき何度も楽しそうに読んでいたのを見かけたことがある。
それを何故今日だけ持っていないのか。
「……忘れた」
「隠すな」
嘘を吐いているというより、何かを隠したがっているように見える。
誤魔化すのが下手なのは流山本人も自覚しているのかもしれない。
じっと見つめていると、今にも泣き出しそうな表情で鞄から何かを取り出した。
「…壊れちゃった」
「そうか。じゃあ夜までに直しておく」
「え?」
流山の手に握られた見るも無残な姿の図鑑を半ば強引に受け取った。
頁が破られ、背表紙はカッターナイフのようなものでずたずたに切られた形跡が見られる。
「あと2時間くらいしかないよ?」
「2時間あるなら充分だ。必ず終わらせる」
半信半疑といった様子の流山を見送り、すぐさま自前の糸で縫い合わせていく。
頁を綺麗に直すことは難しいが、千切れかけている背表紙くらいは直せるだろう。
《またあの子を構ってたの?》
「盗み見とはいい趣味だな」
《なんであの子にそんなに肩入れしてるの?》
「…さあな」
昔の自分に似ているから、なんて言えなかった。
俺の場合は母親が人間たちの罠によって亡くなり、ひとりで暮らしてきたが…何故人間はそこまでして争うのだろうか。
《その糸、あの子に視えたらどうするの?》
「そのときはそのときだ」
普通の人間には視えない、妖が生み出した糸。
母親からは誰とでも仲良くなれる魔法の糸だと言われたが、俺はそうは思わない。
…この糸が原因で母が追い詰められることになったのだから。
「そろそろ時間だからもう行く」
《…気をつけなさい。最近おかしな噂が流行っているから》
「調べてみてはいるんだが、得体が知れないと気味が悪いな」
黒猫は大きなため息を吐いてその場から去っていった。
…そういえば、流山の家族はどういう人物なのだろうか。
血の繋がりがない父親とその男を溺愛する母親…誰も子どものことを見ていないのかもしれない。
そもそも毎晩家を抜け出して気づかれないというのは異常だ。
共働きだとしてもそんなに気づかないものだろうか。
「…お待たせ」
相変わらず表情を崩さない流山だが、今夜は流石にそわそわしている。
そんな少年に製本し直した図鑑を渡すと、ぱっと目を輝かせた。
「これ、本当に先生がやったの?」
「ああ。俺に直せるのはここまでだったが」
「充分だよ。本当にありがとう。…僕の1番大切な宝物なんだ」
にこりと笑う姿に安堵したが、その表情は一瞬で崩れてしまう。
「…今の家の人たちには新しいのを買ってほしいなんて言えないし、これは世界にひとつだけのものだから」
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