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約束のスピカ
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翌日、職員会の前に隣のクラス担任から呼び止められる。
「今朝改めて話を聞きましたが、そんなことはしていないと泣いていましたよ。
先生のクラスの生徒が嘘を吐いているか大げさに言ってるだけということで、この件は解決しましょう」
「ふざけているんですか?」
俺が引き下がると思っていたのだろう。いつもそうして一歩後ろに下がることを意識していたから。
下手に目立てば俺が人間ではないことに辿り着かれてしまう可能性がある。
それでも黙っていられなかった。
「流山は毎日会う度に怪我が増えていました。理由を尋ねても答えないのは、相手を恐れているからです。
それが悪ふざけで済まされるなら、この世界は何をすれば罪に問えるんでしょうか?」
「そもそも、人を傷つけるようなことを田中商事の息子さんがやるはずないでしょう!?勘違いにもほどがある!」
目の前のクズ人間様は、金と権力さえあれば人間性ができていると思っているらしい。
自分で自分を貶めていることにも気づけないならそこまでだ。
話をしても意味がない…そう思っていたが、職員室で話したのはまずかった。
「…先生方、どういうことですか?」
「これは、室星先生のクラスの、」
「うちのクラスの生徒がいじめに遭っているようなんです。調べていただけませんか?
昨日も話し合いだとか言って、暴力を受けた痕まで見せたのに相手が認めないようでして…こちらとしても困っています」
話を聞いた副校長は全校生徒を対象とした無記名アンケートをおこなうよう指示を出した。
権力が、などと言い出す他の管理職たちがいなかったこともあり、即日実施される。
「…ねえ、あのアンケートって先生が提案したの?」
ふたりきりの保健室、俺が作った弁当を食べている流山にそう訊かれた。
「あれは副校長の案だ。管理職の中で唯一まともな先生」
「先生は先生なのに、僕のことを信じてくれるんだね。…遊びってことになるんだって思ってた」
今なら訊いてもいいだろうか。
「流山、今度家庭訪問してもいいか?」
「それは…」
「煙草を押しつけられた痕、もしかしたら親御さんが関係してるのかと思ったんだ。…違ったら悪い」
流山はしばらく黙りこんでいたが、少しだけ教えてくれた。
機嫌が悪いとすぐ暴力をふるわれること、煙草をよく吸っていること、できるだけ家にいたくないこと。
「だけど、この学校に通えなくなるのは嫌だ」
「暴力をふるわれているのにか?」
「……から」
「え?」
「天文部、いい望遠鏡があるから」
「本当に星が好きなんだな。…弁当食べたら午後の授業は来るように。2時間とも俺が受け持つから」
そのまま立ちあがって保健室を出ようとすると、流山に白衣を掴まれる。
「ねえ、先生。1回だけでいいから名前呼んで?」
「流山」
「そうじゃなくて、その…」
「授業に遅れないようにな……瞬」
そのまま流山の表情を確認せずに理科準備室へ向かう。
……このときどんな顔をしていたのか確認しておけば、もう少しすれ違わずにすんだのかもしれない。
──独りきりの保健室で、ごめんと呟かれた声を聞き逃してしまった。
「今朝改めて話を聞きましたが、そんなことはしていないと泣いていましたよ。
先生のクラスの生徒が嘘を吐いているか大げさに言ってるだけということで、この件は解決しましょう」
「ふざけているんですか?」
俺が引き下がると思っていたのだろう。いつもそうして一歩後ろに下がることを意識していたから。
下手に目立てば俺が人間ではないことに辿り着かれてしまう可能性がある。
それでも黙っていられなかった。
「流山は毎日会う度に怪我が増えていました。理由を尋ねても答えないのは、相手を恐れているからです。
それが悪ふざけで済まされるなら、この世界は何をすれば罪に問えるんでしょうか?」
「そもそも、人を傷つけるようなことを田中商事の息子さんがやるはずないでしょう!?勘違いにもほどがある!」
目の前のクズ人間様は、金と権力さえあれば人間性ができていると思っているらしい。
自分で自分を貶めていることにも気づけないならそこまでだ。
話をしても意味がない…そう思っていたが、職員室で話したのはまずかった。
「…先生方、どういうことですか?」
「これは、室星先生のクラスの、」
「うちのクラスの生徒がいじめに遭っているようなんです。調べていただけませんか?
昨日も話し合いだとか言って、暴力を受けた痕まで見せたのに相手が認めないようでして…こちらとしても困っています」
話を聞いた副校長は全校生徒を対象とした無記名アンケートをおこなうよう指示を出した。
権力が、などと言い出す他の管理職たちがいなかったこともあり、即日実施される。
「…ねえ、あのアンケートって先生が提案したの?」
ふたりきりの保健室、俺が作った弁当を食べている流山にそう訊かれた。
「あれは副校長の案だ。管理職の中で唯一まともな先生」
「先生は先生なのに、僕のことを信じてくれるんだね。…遊びってことになるんだって思ってた」
今なら訊いてもいいだろうか。
「流山、今度家庭訪問してもいいか?」
「それは…」
「煙草を押しつけられた痕、もしかしたら親御さんが関係してるのかと思ったんだ。…違ったら悪い」
流山はしばらく黙りこんでいたが、少しだけ教えてくれた。
機嫌が悪いとすぐ暴力をふるわれること、煙草をよく吸っていること、できるだけ家にいたくないこと。
「だけど、この学校に通えなくなるのは嫌だ」
「暴力をふるわれているのにか?」
「……から」
「え?」
「天文部、いい望遠鏡があるから」
「本当に星が好きなんだな。…弁当食べたら午後の授業は来るように。2時間とも俺が受け持つから」
そのまま立ちあがって保健室を出ようとすると、流山に白衣を掴まれる。
「ねえ、先生。1回だけでいいから名前呼んで?」
「流山」
「そうじゃなくて、その…」
「授業に遅れないようにな……瞬」
そのまま流山の表情を確認せずに理科準備室へ向かう。
……このときどんな顔をしていたのか確認しておけば、もう少しすれ違わずにすんだのかもしれない。
──独りきりの保健室で、ごめんと呟かれた声を聞き逃してしまった。
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