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約束のスピカ
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「先生、なんだか疲れてない?」
「そんなことはないと思うが」
いつものように授業に出ていなかった流山に声をかけ、ついでに弁当も渡す。
「今日は何もされてないか?」
「大丈夫」
それにしては疲れているように見えるが、家庭での問題だろうか。
【流行りの噂を壊す】
今日予知日記に書かれていたことはかなり抽象的で、いつ誰がどうやってという内容がなかった。
考えても仕方がないことだが、何故か気になってしまう。
「できた」
「…3問目と6問目、間違ってる」
「見ただけで分かるの?」
「ぱっと見計算ミスがある。こことここ、あとここ」
「先生、超人だね」
流山は真剣に修正して、全問正解になったものを見せてくれた。
「これならどう?」
「できてる」
「よかった…」
最近少しずつ様々な表情が見られるようになってほっとしている。
「午後から行く場所があるんだ。悪いがここに隠れててくれ」
「…分かった」
他の教室にいるより保健室の方がリスクが少ない。
流山の心は擦り切れて壊れそうになっているだろうから。
「先生」
「どうした?」
「これあげる。…いつものお礼」
袋の中には新しい手袋が入っていて、心がぽかぽかする感覚に襲われる。
「手作りか?器用なんだな」
「自分の服が破れたときに直したついで」
「そうか。ありがとう、すごく嬉しいよ」
頭をぽんぽんすると、流山は少し微笑んだ。
弁当を手渡し、真っ直ぐな瞳を見つめかえす。
「しっかり食べてくれ」
「分かった。先生のご飯、美味しいから…」
口内でキャラメルを転がしながらバスに乗り、流山の表札がついた家の前に立つ。
インターホンを押してみたが、やはり誰も出ない。
流山の家族を1度も見たことがないため、声をかけることも難しいのだ。
学園側が家庭訪問を認めないならこちらが勝手にやるしかない。
人間の気配はしているので、恐らくわざと出ないようにしているのだろう。
「ごめんください」
しばらく待ってみたものの、結局誰かが出てくる気配はない。
今回は諦めようと戸から少し離れた瞬間、小さな子どもの声がした。
「おかあさん、だれかいるよ?」
「怖い人かもしれないから出ちゃ駄目」
人間よりは耳がいいせいで聞きたくないものが丸聞こえだ。
流山が話していた言葉の意味を理解すると同時に怒りがこみあげる。
それでも、今の俺にはどうすることもできそうにない。
「お願いします。正式に家庭訪問させてください!」
「勘違いということで片がついただろ!」
学園に戻ったその足で職員室へ向かったが、結局この調子で議論が進まない。
「このまま流山の心の傷を無視すれば、取り返しのつかないことになります。俺はできる限りサポートしたいんです。
生徒の心に寄り添う…俺にとっての先生ってそういう仕事ですから」
「いいからもう黙りなさい!室星先生、あなたは黙っていればいいんです」
何故取り合ってもらえないのかは分かっているつもりだ。
この小さな町で権力者を敵に回すとどうなるか分からない、だったら被害者に我慢させればいい。
「室星先生、大丈夫ですか?」
「ああ…すみません、うるさくして」
他の教員からも疑問視する声はあがっているが、この人間たちには生活がかかっている。
だからこそ俺がなんとかしようと思ったのだが、相手の頭は思った以上に固かった。
空が茜色に染まる頃、いつものように教室を見回る。
流山はいつもの場所にいたが、少し近づくとすすり泣く声がした。
「…どうした?」
「そんなことはないと思うが」
いつものように授業に出ていなかった流山に声をかけ、ついでに弁当も渡す。
「今日は何もされてないか?」
「大丈夫」
それにしては疲れているように見えるが、家庭での問題だろうか。
【流行りの噂を壊す】
今日予知日記に書かれていたことはかなり抽象的で、いつ誰がどうやってという内容がなかった。
考えても仕方がないことだが、何故か気になってしまう。
「できた」
「…3問目と6問目、間違ってる」
「見ただけで分かるの?」
「ぱっと見計算ミスがある。こことここ、あとここ」
「先生、超人だね」
流山は真剣に修正して、全問正解になったものを見せてくれた。
「これならどう?」
「できてる」
「よかった…」
最近少しずつ様々な表情が見られるようになってほっとしている。
「午後から行く場所があるんだ。悪いがここに隠れててくれ」
「…分かった」
他の教室にいるより保健室の方がリスクが少ない。
流山の心は擦り切れて壊れそうになっているだろうから。
「先生」
「どうした?」
「これあげる。…いつものお礼」
袋の中には新しい手袋が入っていて、心がぽかぽかする感覚に襲われる。
「手作りか?器用なんだな」
「自分の服が破れたときに直したついで」
「そうか。ありがとう、すごく嬉しいよ」
頭をぽんぽんすると、流山は少し微笑んだ。
弁当を手渡し、真っ直ぐな瞳を見つめかえす。
「しっかり食べてくれ」
「分かった。先生のご飯、美味しいから…」
口内でキャラメルを転がしながらバスに乗り、流山の表札がついた家の前に立つ。
インターホンを押してみたが、やはり誰も出ない。
流山の家族を1度も見たことがないため、声をかけることも難しいのだ。
学園側が家庭訪問を認めないならこちらが勝手にやるしかない。
人間の気配はしているので、恐らくわざと出ないようにしているのだろう。
「ごめんください」
しばらく待ってみたものの、結局誰かが出てくる気配はない。
今回は諦めようと戸から少し離れた瞬間、小さな子どもの声がした。
「おかあさん、だれかいるよ?」
「怖い人かもしれないから出ちゃ駄目」
人間よりは耳がいいせいで聞きたくないものが丸聞こえだ。
流山が話していた言葉の意味を理解すると同時に怒りがこみあげる。
それでも、今の俺にはどうすることもできそうにない。
「お願いします。正式に家庭訪問させてください!」
「勘違いということで片がついただろ!」
学園に戻ったその足で職員室へ向かったが、結局この調子で議論が進まない。
「このまま流山の心の傷を無視すれば、取り返しのつかないことになります。俺はできる限りサポートしたいんです。
生徒の心に寄り添う…俺にとっての先生ってそういう仕事ですから」
「いいからもう黙りなさい!室星先生、あなたは黙っていればいいんです」
何故取り合ってもらえないのかは分かっているつもりだ。
この小さな町で権力者を敵に回すとどうなるか分からない、だったら被害者に我慢させればいい。
「室星先生、大丈夫ですか?」
「ああ…すみません、うるさくして」
他の教員からも疑問視する声はあがっているが、この人間たちには生活がかかっている。
だからこそ俺がなんとかしようと思ったのだが、相手の頭は思った以上に固かった。
空が茜色に染まる頃、いつものように教室を見回る。
流山はいつもの場所にいたが、少し近づくとすすり泣く声がした。
「…どうした?」
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