26 / 71
約束のスピカ
問8
しおりを挟む
「ベラトリクスとペテルギウス…ってことは、オリオン座かな」
空に浮かぶ星を、久しぶりにセットした望遠鏡で観察してみる。
狩人オリオンは恋人の月の女神アルテミスを誤って矢で射抜いてしまう。
悲しむオリオンを哀れに思ったゼウスが星座に変えて月の道に置いてあげた、なんていう話があった気がする。
恋なんてしたことなかったけど、大切な人と離れて悲しい気持ちになるのは理解できる気がした。
「…そっか、もう冬なんだ」
あの生徒たちが謹慎になっていたんだとしたら、そろそろ戻ってくる話になってもおかしくない。
偉い人の子どもだってことは知ってるから、どうせ戻ることになることくらい分かってる。
だけど、それがどうしても許せない。
もしまた僕みたいな人が出たらと思うと不安になる。
《やっぱりここにいた》
「おかげさん…」
《あの生徒たち、転校するらしいよ》
「え?」
お金持ちの人だからいなくなったら困るみたいな言い方をしてた教師だっているのに、生徒だけが怒られるのはおかしい気もする。
きっとひとりだけ痛くも痒くもない思いをしていたんだと思うと、どうして大人たちはそんなに酷いことをするんだろう。
《ついでに、教師は懲戒解雇だから》
「処分、結構重いんだね」
《事態を大事とみた人がいたんだろうね。じゃないと、ここまで処分をくだしてないんじゃないかな?》
おかげさんの話を聞きながらふと思った。
…それも、先生のおかげなのかな。
あんなに傷つけたのに、まだ僕のために何かしてくれたんだとしたらますます合わせる顔がない。
……だけど、そんな先生だから憧れたんだ。
『流山、おまえがやったんだろ?』
『僕じゃありません』
『割ったのを見たって奴がいるんだよ。おまえなんだろ!』
職員室中に響くような大きな声で怒られて、体が震える。
ガラスを割った犯人にされてしまった僕は集中砲火を受けていて、やったことにしてしまおうかと考えていた。
『ガラスが割れた時間帯、流山は俺と面談してました。面談というか授業ですが』
『室星先生は黙っていてください。俺はこいつに、』
『……はあ?』
先生はいつもより低い声で、相手の先生を睨みつける。
周りでざわざわ言われても先生は動じなかった。
『俺が証人です。放課後すぐ、旧校舎の理科準備室で器具の片づけを手伝ってもらっていました。
流山がふたりいないとガラスを割るのは無理なんです』
『そ、そうなんですか…。流山、疑って悪かった。おまえが割ったって話してた生徒にもう1度聞き取りする』
周りから人がいなくなった後、すぐに保健室へ連れて行かれる。
『…それで、誰にやられた?』
『気づいてたの?』
『一応』
思ったより深く切れていたのか、指がずきずき痛む。
…さっき先生が言っていたことが半分嘘だなんて、あの場にいた誰も考えなかっただろう。
たしかに僕は直前まで器具の片づけを手伝っていたけど、窓ガラスが割られた時間は準備室にいなかった。
少し忘れ物をしたから自分の教室に戻っていたのだ。
何かが割れた音がしたから行ってみたら硝子が粉々で、そのままだと危ないから掃除した。
『消毒終わり。気をつけろ』
『…分かった』
思えばあのときも助けられた。
どうして助けてくれたのかは分からないままだけど、その頃から先生は僕にとってのヒーローだったんだ。
空に浮かぶ星を、久しぶりにセットした望遠鏡で観察してみる。
狩人オリオンは恋人の月の女神アルテミスを誤って矢で射抜いてしまう。
悲しむオリオンを哀れに思ったゼウスが星座に変えて月の道に置いてあげた、なんていう話があった気がする。
恋なんてしたことなかったけど、大切な人と離れて悲しい気持ちになるのは理解できる気がした。
「…そっか、もう冬なんだ」
あの生徒たちが謹慎になっていたんだとしたら、そろそろ戻ってくる話になってもおかしくない。
偉い人の子どもだってことは知ってるから、どうせ戻ることになることくらい分かってる。
だけど、それがどうしても許せない。
もしまた僕みたいな人が出たらと思うと不安になる。
《やっぱりここにいた》
「おかげさん…」
《あの生徒たち、転校するらしいよ》
「え?」
お金持ちの人だからいなくなったら困るみたいな言い方をしてた教師だっているのに、生徒だけが怒られるのはおかしい気もする。
きっとひとりだけ痛くも痒くもない思いをしていたんだと思うと、どうして大人たちはそんなに酷いことをするんだろう。
《ついでに、教師は懲戒解雇だから》
「処分、結構重いんだね」
《事態を大事とみた人がいたんだろうね。じゃないと、ここまで処分をくだしてないんじゃないかな?》
おかげさんの話を聞きながらふと思った。
…それも、先生のおかげなのかな。
あんなに傷つけたのに、まだ僕のために何かしてくれたんだとしたらますます合わせる顔がない。
……だけど、そんな先生だから憧れたんだ。
『流山、おまえがやったんだろ?』
『僕じゃありません』
『割ったのを見たって奴がいるんだよ。おまえなんだろ!』
職員室中に響くような大きな声で怒られて、体が震える。
ガラスを割った犯人にされてしまった僕は集中砲火を受けていて、やったことにしてしまおうかと考えていた。
『ガラスが割れた時間帯、流山は俺と面談してました。面談というか授業ですが』
『室星先生は黙っていてください。俺はこいつに、』
『……はあ?』
先生はいつもより低い声で、相手の先生を睨みつける。
周りでざわざわ言われても先生は動じなかった。
『俺が証人です。放課後すぐ、旧校舎の理科準備室で器具の片づけを手伝ってもらっていました。
流山がふたりいないとガラスを割るのは無理なんです』
『そ、そうなんですか…。流山、疑って悪かった。おまえが割ったって話してた生徒にもう1度聞き取りする』
周りから人がいなくなった後、すぐに保健室へ連れて行かれる。
『…それで、誰にやられた?』
『気づいてたの?』
『一応』
思ったより深く切れていたのか、指がずきずき痛む。
…さっき先生が言っていたことが半分嘘だなんて、あの場にいた誰も考えなかっただろう。
たしかに僕は直前まで器具の片づけを手伝っていたけど、窓ガラスが割られた時間は準備室にいなかった。
少し忘れ物をしたから自分の教室に戻っていたのだ。
何かが割れた音がしたから行ってみたら硝子が粉々で、そのままだと危ないから掃除した。
『消毒終わり。気をつけろ』
『…分かった』
思えばあのときも助けられた。
どうして助けてくれたのかは分からないままだけど、その頃から先生は僕にとってのヒーローだったんだ。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
白苑後宮の薬膳女官
絹乃
キャラ文芸
白苑(はくえん)後宮には、先代の薬膳女官が侍女に毒を盛ったという疑惑が今も残っていた。先代は瑞雪(ルイシュエ)の叔母である。叔母の濡れ衣を晴らすため、瑞雪は偽名を使い新たな薬膳女官として働いていた。
ある日、幼帝は瑞雪に勅命を下した。「病弱な皇后候補の少女を薬膳で救え」と。瑞雪の相棒となるのは、幼帝の護衛である寡黙な武官、星宇(シンユィ)。だが、元気を取り戻しはじめた少女が毒に倒れる。再び薬膳女官への疑いが向けられる中、瑞雪は星宇の揺るぎない信頼を支えに、後宮に渦巻く陰謀へ踏み込んでいく。
薬膳と毒が導く真相、叔母にかけられた冤罪の影。
静かに心を近づける薬膳女官と武官が紡ぐ、後宮ミステリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる