約束のスピカ

黒蝶

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追憶のシグナル

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「え、何者って言われても…」
「そうか。…いつか話してくれ」
やっぱり怪我がないことを疑われていたのか。
この人は人の見る目が長けている。
だから次期部長に選ばれたのだろう。
室星先生といい、この学園にはすごい才能を持った人が沢山いる。
「油断しないようにな」
「はい」
目の前から何かが迫ってくるのを感じながら拳を構える。
先輩はポケットから口紅を取り出し、ひと塗りしてすぐ仕舞った。
「それ、思い入れがあるものなんですか?」
「うん。…まあ、一応願掛けの意味もあるけどな」
先輩はまた弓を使って道を作ってくれた。
更に奥へ進むと、今度こそ本体らしきものが現れる。
《代わッテ、代ワッテ》
「申し訳ないけどそれは無理。けど、何があったか教えてほしい」
相手は俯いたまま何も話さなくなる。
だから少し油断していた。
《代ワレヨオオ!》
そう叫びながら、勢いよく突進してくる。
ごりっと鈍い音がしたものの、なんとか拳で押さえこんだ。
「そんなことが願いじゃなかったはずだ。本当は何が欲しかった?」
血まみれの服に影のように真っ黒な顔…そして、異様な速度で迫ってくる光景が事の深刻さを表している。
このままでは成仏させてやれない。
《グオオオ!》
これはあくまで桜良とふたりで検証していくうちに知ったことだが、こっちの残っている死者は心残りがある場合と負の感情で動けなくなる場合がある。
どちらかといえば前者の方が想いを利用されて闇堕ちさせられやすい。
成仏できなければ、その場に半永続的に残るか消滅するかの二択しか残らなくなる。
「頼む、話をさせてくれ!」
《代ワレ、代ワリ、代ワ……?》
本人も自分がどういう状態なのか分かっていないように見える。
その隙にどうにか拳でねじ伏せ、相手の動きを封じた。
霊力がごりごりに削がれていくのを感じながら、相手の表情をよく確認しようと目を凝らす。
すると、真っ黒な仮面のようなものにひびが入っているのが見えた。
「…ねえ、それ取っちゃわない?」
《取る、コレ…?》
「そう。もしかしたら、見たことない世界が見えるかもよ?」
声はさっきより落ち着いているものの、噂が流れすぎているせいか上手く力を抑えられないらしい。
せめて先輩が来るまではここで持ち堪えないと大変なことになる。
「自分の名前、分かる?」
《……岩倉》
予想どおりだ。
「じゃあ岩倉。最後に何してたかはっきり思い出せるのはいつだ?」
《分かラナい。花を、買イに…それ、カラ…》
俺はよく知っている。
花屋に行く途中、危険運転の車が突っこんでそのまま亡くなったことを。
……恐らく恋人に渡す予定だった花束を受け取りに行っている途中だったことも。
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