約束のスピカ

黒蝶

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追憶のシグナル

第14項

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話しているうちに日はすっかり落ちて、月がうっすら雲に覆われている。
「ありがとう。こんなふうに話すのは初めてだったから…」
《いつか心に抱えている苦しみが消えるといいわね》
「……消してしまっていいと思う?」
《そのときがくれば構わないんじゃないかしら?私としては、もう苦しんでほしくないけれど》
丁寧な言葉遣いをする人で、本当に話しやすかった。
嫌なことは根掘り葉掘り聞いてこないし、こういうことを心地いい距離の関係というのだろう。
妖は人間と違って嘘を吐かないし、本当にいい時間を過ごせた。
《そろそろ彼が来るのではないかしら?》
「来るかもしれない」
話しながらまとめた資料を持って、放送室のチェーンを開ける。
古い部屋なのに何故か便利なものが取り付けられていて、正直とても助かっていた。
「桜良!」
「監査部の仕事は?」
「やっと終わったから来たんだよ。それより…」
おさげ眼鏡の少女を見つめながら、陽向は緊張しているように見える。
「彼女が例の人?」
《はじめまして、でいいのかしら。お邪魔なようならもう少し遅い時間になるまで消えるけれど…》
「いやいや、邪魔とか思ってないし。それに、桜良が楽しそうだからそれでいいんだ」
そう明るく話す陽向の笑顔に気恥ずかしさを感じながら、じっとおさげ眼鏡の少女を見る。
「そういえば、あなたの名前を聞いてなかった」
《みこと名乗っていたからそれでいいわ》
「分かった」
「みこは守り人と仲良し?」
《仲良し…そうね、個人的にはそう思っているわ》
みこは少し照れたように微笑みながら、少しずつ話してくれた。
《私は元々、宿り木の近くに捨てられた子どもだったの。今でこそ化身のようなものだけど、残念ながら家族に愛されなかった》
捨てられたとき、みこはまだ3歳だったのだという。
そのときに声をかけてきたのが守り人だったそうだ。
《普段森の奥から出ないけど、必ず護るって言ってくれたのよ。
…今となっては、その言葉が本心だったのか私をあの場所に縛りつけるものだったのか分からないけれど》
「どういうことだ?」
《あの大樹に長くとどまったから、私は今の姿まで成長した、といえば分かりやすいかしら?》
陽向は首を傾げていたけれど、私には分かった。
分かってしまった。
「あなた、生贄だったの?」
「え、生贄!?」
《愛されなかった子どもなら捧げても問題ない、最後には従順になるはずだと思われたのでしょうね。
…ただ、あの人と過ごした日々の幸福に嘘はない。勝手かもしれないけど、そう信じているわ》
みこは寂しげに微笑み、その場で真っ直ぐ立っている。
自分が苦しい思いをしてきたから、他の人たちの苦しみを誰よりも理解できるのかもしれない。
そんな彼女に近づき手を握る。
「その想いを伝えて。力になる」
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