泣けない、泣かない。

黒蝶

文字の大きさ
15 / 156
泣けないver.

澄みわたる碧

しおりを挟む
「おはよう」
「優翔、私...」
「ご飯作ったから、食べながら話そうか」
「うん」
あれから少し話をしているうちに、詩音は安心した様子で眠った。
その間に僕は在学中の大学から言われた作業を終わらせ、そのまま自室に戻って休んだのだ。
ただ、詩音はいつ僕が部屋を出たのかなんて知らないだろう。
もしかすると、一晩中一緒にいさせて迷惑をかけたと思っているのかもしれない。
「ごめんなさい、私...」
「詩音、僕は君が寝た後で部屋に戻ったんだ。作業するのに音がしたら、煩くて起こしちゃいそうだったから。
だから、そんなに申し訳なさそうな顔をすることないんだよ」
「ありがとう。やっぱり優翔は優しいね...」
「僕にとって当たり前のことをしているだけだよ」
こうしてふたり並んで食事をするのは、なんだか久しぶりのような気がする。
僕が詩音の学校に教育実習に向かうまでは、休日にのんびりこのマンションで過ごすことはあった。
寧ろそんな日が多かったような気がする。
だが、最近は人に見つからないようにしなければならないという意識の方が強い。
僕もそうだが、詩音も気をつけてくれているのが手に取るように分かるので申し訳なく思う。
「詩音、周りに気づかれないようにしてくれるのはすごくありがたいんだけど...溜めこまずにもっと来てほしいな」
「でも、もし見つかったら優翔と離ればなれになっちゃうんじゃないかって...。
そう思うと、怖くてなかなか来られない」
やはりそうだ。
自分より人の為に動く...尊敬できる部分だが、それで詩音が傷ついてしまうのは放っておけない。
「確かに、これはいけないことだと思う。端から見れば『生徒を連れこむ教師(仮)』なんだろうなって...。
でも、その前に僕たちは恋人だって証明できるものは沢山持ってるよ」
「...?どういうこと?」
1冊のアルバムを取り出し、それを詩音に渡した。
「確かにこれなら証明になるかもしれない」
そこにあるのは、僕たちが写るものばかり...どれにも日付が刻まれている。
手書きでは証明困難だが、きちんと入っていれば証拠になるはずだ。
「それに、たとえ証明にならなくてもいいんだ。誰に何を言われようと、僕は七海のことが好きだから。
...嫌われちゃうまでは離してあげられそうにない」
「私は嫌いになったりしないよ。...お互い、一生ものの恋なのかもしれないね」
「そうだね。そうだといいな...」
ふたりで食べるご飯は、こんなにも温かい。
空はいつの間にか晴れていて、大きな虹がかかっている。
ふたりの未来もきっと明るいのだと、そんな話をしながら笑いあった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

【完結】悪の尋問令嬢、″捨てられ王子″の妻になる。

Y(ワイ)
ファンタジー
尋問を生業にする侯爵家に婿入りしたのは、恋愛戦略に敗れた腹黒王子。 白い結婚から始まる、腹黒VS腹黒の執着恋愛コメディ(シリアス有り)です。

🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。

設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇 ☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。 ―― 備忘録 ――    第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。  最高 57,392 pt      〃     24h/pt-1位ではじまり2位で終了。  最高 89,034 pt                    ◇ ◇ ◇ ◇ 紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる 素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。 隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が 始まる。 苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・ 消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように 大きな声で泣いた。 泣きながらも、よろけながらも、気がつけば 大地をしっかりと踏みしめていた。 そう、立ち止まってなんていられない。 ☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★ 2025.4.19☑~

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

煙草屋さんと小説家

男鹿七海
キャラ文芸
※プラトニックな関係のBL要素を含む日常ものです。 商店街の片隅にある小さな煙草屋を営む霧弥。日々の暮らしは静かで穏やかだが、幼馴染であり売れっ子作家の龍二が店を訪れるたびに、心の奥はざわめく。幼馴染としてでも、客としてでもない――その存在は、言葉にできないほど特別だ。 ある日、龍二の周囲に仕事仲間の女性が現れ、霧弥は初めて嫉妬を自覚する。自分の感情を否定しようとしても、触れた手の温もりや視線の距離が、心を正直にさせる。日常の中で少しずつ近づく二人の距離は、言葉ではなく、ささやかな仕草や沈黙に宿る。 そして夜――霧弥の小さな煙草屋で、龍二は初めて自分の想いを口にし、霧弥は返事として告白する。互いの手の温もりと目の奥の真剣さが、これまで言葉にできなかった気持ちを伝える瞬間。静かな日常の向こうに、確かな愛が芽吹く。 小さな煙草屋に灯る、柔らかく温かな恋の物語。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness

碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞> 住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。 看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。 最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。 どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……? 神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――? 定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。 過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

処理中です...