81 / 156
泣かないver.
早めの登校で見られるもの
しおりを挟む
「おはようございます」
「あら、大翔君」
今朝は早いのね、なんて言いながら笑うお母さんの表情はとても柔らかいものだった。
久遠はきっと、この人に心配をかけないようにしているのだろう。
「おはよう」
「おはよう。それじゃあ行ってきます」
「いってらっしゃい」
彼女は家族にも気を遣っているのだろうか。
その態度には俺も少し見に覚えがあった。
『なんであんたは優秀じゃないの!?』
...もうすぐだ。もうすぐあの場所から出られる。
「大翔?どうかしたの?」
「いや、なんでもない。ちょっとだけ寄り道していかないか?」
「すごく楽しそう...!どこに行くの?」
「着いてからのお楽しみ」
ふたりでそんな話をしながら道なりに進むと、目の前に朝陽がさしこむ。
この場所がいい眺めだということを、俺はよく知っていた。
バイトで早いときや独りになりたいとき、度々訪れているから。
「すごく綺麗だね...なんて普通のことしか言えないんだけど、本当に綺麗」
「俺のとっておきのうちのひとつ。気に入ってもらえたならよかった」
こうして隣を歩いて手を繋いで...大袈裟だと言われてしまいそうだが、そんな関係になれる相手が現れるとは思っていなかった。
俺は一生駄目なんだと言い聞かせていたのに、いつだって久遠が世界を彩づけてくれるのだ。
ありがとうなんて恥ずかしくて言えないが、本当はとても感謝している。
「よし、そろそろ駅に行って電車に乗るか」
「うん」
そうして辿り着いた学校からの景色もまた別の美しさがあった。
「教室が輝いて見える...幻想的だね」
「人がいない校舎って不思議だろ?いつもあんなにわいわいしてるのに、今ここには俺たちしかいない」
「そう考えると、この景色はとても贅沢なものだね」
「...そうだな」
以前独りで立ち尽くしていた日とは見え方が違う。
あのときより更に輝きを増し、全てを包みこんでくれそうなほど眩しい。
それに、なんだか胸が温かくなっていくのを感じる。
独りよりふたり、よくそういう言葉が出てくるがそのとおりらしい。
「先生はまだ来てないの?」
「この時間帯なら通信制用職員室にいるけど、ここまでは来ない」
「そうなんだ...」
「ちょっとだけこっち来て」
首を傾げている久遠にそっと口づける。
「...!」
「今日1日頑張る為のパワーをもらった。誰も見てないし大丈夫だろ」
「そういうことじゃなくて、こういう場所では恥ずかしいというか、その...嬉しくてにやけちゃうよ」
「別にいいだろ。...可愛いんだから」
小さく付け加えたつもりだったのに、ばっちり久遠の耳に届いていたらしい。
真っ赤になった彼女の唇にもう1度だけキスをする。
朝陽だけに見守られながら、どんなことも頑張ってみようと誓ったのだった。
「あら、大翔君」
今朝は早いのね、なんて言いながら笑うお母さんの表情はとても柔らかいものだった。
久遠はきっと、この人に心配をかけないようにしているのだろう。
「おはよう」
「おはよう。それじゃあ行ってきます」
「いってらっしゃい」
彼女は家族にも気を遣っているのだろうか。
その態度には俺も少し見に覚えがあった。
『なんであんたは優秀じゃないの!?』
...もうすぐだ。もうすぐあの場所から出られる。
「大翔?どうかしたの?」
「いや、なんでもない。ちょっとだけ寄り道していかないか?」
「すごく楽しそう...!どこに行くの?」
「着いてからのお楽しみ」
ふたりでそんな話をしながら道なりに進むと、目の前に朝陽がさしこむ。
この場所がいい眺めだということを、俺はよく知っていた。
バイトで早いときや独りになりたいとき、度々訪れているから。
「すごく綺麗だね...なんて普通のことしか言えないんだけど、本当に綺麗」
「俺のとっておきのうちのひとつ。気に入ってもらえたならよかった」
こうして隣を歩いて手を繋いで...大袈裟だと言われてしまいそうだが、そんな関係になれる相手が現れるとは思っていなかった。
俺は一生駄目なんだと言い聞かせていたのに、いつだって久遠が世界を彩づけてくれるのだ。
ありがとうなんて恥ずかしくて言えないが、本当はとても感謝している。
「よし、そろそろ駅に行って電車に乗るか」
「うん」
そうして辿り着いた学校からの景色もまた別の美しさがあった。
「教室が輝いて見える...幻想的だね」
「人がいない校舎って不思議だろ?いつもあんなにわいわいしてるのに、今ここには俺たちしかいない」
「そう考えると、この景色はとても贅沢なものだね」
「...そうだな」
以前独りで立ち尽くしていた日とは見え方が違う。
あのときより更に輝きを増し、全てを包みこんでくれそうなほど眩しい。
それに、なんだか胸が温かくなっていくのを感じる。
独りよりふたり、よくそういう言葉が出てくるがそのとおりらしい。
「先生はまだ来てないの?」
「この時間帯なら通信制用職員室にいるけど、ここまでは来ない」
「そうなんだ...」
「ちょっとだけこっち来て」
首を傾げている久遠にそっと口づける。
「...!」
「今日1日頑張る為のパワーをもらった。誰も見てないし大丈夫だろ」
「そういうことじゃなくて、こういう場所では恥ずかしいというか、その...嬉しくてにやけちゃうよ」
「別にいいだろ。...可愛いんだから」
小さく付け加えたつもりだったのに、ばっちり久遠の耳に届いていたらしい。
真っ赤になった彼女の唇にもう1度だけキスをする。
朝陽だけに見守られながら、どんなことも頑張ってみようと誓ったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
退屈令嬢のフィクサーな日々
ユウキ
恋愛
完璧と評される公爵令嬢のエレノアは、順風満帆な学園生活を送っていたのだが、自身の婚約者がどこぞの女生徒に夢中で有るなどと、宜しくない噂話を耳にする。
直接関わりがなければと放置していたのだが、ある日件の女生徒と遭遇することになる。
月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜
白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳
yayoi
×
月城尊 29歳
takeru
母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司
彼は、母が持っていた指輪を探しているという。
指輪を巡る秘密を探し、
私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。
『後宮薬師は名を持たない』
由香
キャラ文芸
後宮で怪異を診る薬師・玉玲は、母が禁薬により処刑された過去を持つ。
帝と皇子に迫る“鬼”の気配、母の遺した禁薬、鬼神の青年・玄曜との出会い。
救いと犠牲の狭間で、玉玲は母が選ばなかった選択を重ねていく。
後宮が燃え、名を失ってもなお――
彼女は薬師として、人として、生きる道を選ぶ。
新しい家族は保護犬きーちゃん
ゆきむらさり
エッセイ・ノンフィクション
〔あらすじ〕📝初めて🐶保護犬ちゃんを迎え入れる我が家。
過去の哀しい実情のせいで人間不信で怯える保護犬きーちゃん。
初日から試行錯誤の日々と保護犬きーちゃんがもたらす至福の日々。
◇
🔶保護犬ちゃん達の過去・現在の実情の記述もあります🐾
🔶日々の些細な出来事を綴っています。現在進行形のお話となります🐾
🔶🐶挿絵画像入りです。
🔶拙いエッセイにもかかわらず、HOTランキングに入れて頂き(2025.7.1、最高位31位)ありがとうございます🙇♀️
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる