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泣けないver.
画面越しに聞く事実
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気遣いに感謝しつつ首を横にふる。
「ううん、私は全然。...私の方こそふたりの邪魔になってない?」
『そんなこと、俺は思わない。ただ...日を改めた方がいいか?』
『いや、別にいいんじゃないかな?大翔が帰りたいならそれでいいけど、そうじゃないなら一緒に食べよう』
大翔君はじゃあ、と呟きながら優翔の隣に座ったようだ。
やっぱりこのふたりの兄弟愛は微笑ましい。
「久遠は元気にしてる?」
『少なくても革命をおこさなきゃいけないほど悪い学校じゃないから、なんとか元気にやってる』
「革命?」
大翔君は柔らかい笑顔で私と接してくれた。
『兄貴からちょっとだけ聞いてる。...なかなか大変そうだな』
『ちょっと大翔、勝手に言わないで!』
どんなことを話したのか気になったけれど、優翔が顔を真っ赤にしているのを見て訊くのをやめた。
けれど、ふたりにはお見通しだったらしい。
『聞きたいなら後で教える』
「それはさておき...私がやってることは、そんなに立派なことじゃないよ」
『本当に立派なことをやってる奴はみんなそう答えるんじゃないか?
あと、兄貴からちょっとだけ事情も聞かせてもらった。...相変わらず最悪な学校なんだな』
「え...?」
彼は確かに『相変わらず最悪な学校』だと言った。
まるで自分が通っていたことがあるかのようにさらりと告げたのだ。
『その学校にある生徒が通ってた。年下の面倒見がいい人で、すごく優しい人だったんだ。
...俺も何度か遊んでもらったことがある』
『...大翔』
『その人は兄貴の友人で、兄貴と一緒に戦ってた。ずっと苦しんで、戦い続けてきた人なんだ』
大翔君が、泣いているような気がした。
『教師たちは何もしてくれなくて、兄貴もみるみるうちに元気がなくなって...見てられなかった。
兄貴があの人の側に行けなかったその日...自らの命を絶った』
「...!」
はじめは大翔君が通っていたのだと思っていた。
けれどよくよく考えてみると、彼は1年生から通信制だと聞いたことがあった。
体調を崩して途中から通信制に転入した兄と、最初から通信制を選択したらしい弟。
そして、ほとんどの人間が知らないはずの『3年前の事件』。
何故そうしたのか深く訊けずにいたけれど、全てのことが紐解けたような気がした。
(...まさか)
もしそうなら、事は思った以上に深刻だ。
「3年前の事件の被害者が、優翔と大翔君のお友だち...?」
『...別の学校だったけど、同じようにぼろぼろのノートを持ってたんだ。声をかけたのは僕からだった。
彼の家は母子家庭で、母親ともあまり顔を合わせることがなかったみたい。
僕は僕で嫌がらせに耐えてる最中だった。...だからすごく気が合ったんだ』
「優翔...」
『僕は体調を崩して、彼のところに行けなかった。...そして事件がおこったんだ』
泣いている大翔君の背中をさすりながら、優翔は哀しそうに微笑んだ。
『僕は自分のせいだと思ってた。でもその考えはお葬式の日に捨てた。
というより、捨てさせてくれたんだ』
「どういうこと?」
『彼のお母さんが、「あなたたちが背負う必要はない。でも、この子が生きていた事実だけは忘れないで」って...そう言ってくれたんだ』
優翔は今にも泣き出しそうな声で最後まで話し続けた。
『だから僕は、生徒たちを見捨てない場所を作れる人になりたいって...そう思ったんだ』
「ううん、私は全然。...私の方こそふたりの邪魔になってない?」
『そんなこと、俺は思わない。ただ...日を改めた方がいいか?』
『いや、別にいいんじゃないかな?大翔が帰りたいならそれでいいけど、そうじゃないなら一緒に食べよう』
大翔君はじゃあ、と呟きながら優翔の隣に座ったようだ。
やっぱりこのふたりの兄弟愛は微笑ましい。
「久遠は元気にしてる?」
『少なくても革命をおこさなきゃいけないほど悪い学校じゃないから、なんとか元気にやってる』
「革命?」
大翔君は柔らかい笑顔で私と接してくれた。
『兄貴からちょっとだけ聞いてる。...なかなか大変そうだな』
『ちょっと大翔、勝手に言わないで!』
どんなことを話したのか気になったけれど、優翔が顔を真っ赤にしているのを見て訊くのをやめた。
けれど、ふたりにはお見通しだったらしい。
『聞きたいなら後で教える』
「それはさておき...私がやってることは、そんなに立派なことじゃないよ」
『本当に立派なことをやってる奴はみんなそう答えるんじゃないか?
あと、兄貴からちょっとだけ事情も聞かせてもらった。...相変わらず最悪な学校なんだな』
「え...?」
彼は確かに『相変わらず最悪な学校』だと言った。
まるで自分が通っていたことがあるかのようにさらりと告げたのだ。
『その学校にある生徒が通ってた。年下の面倒見がいい人で、すごく優しい人だったんだ。
...俺も何度か遊んでもらったことがある』
『...大翔』
『その人は兄貴の友人で、兄貴と一緒に戦ってた。ずっと苦しんで、戦い続けてきた人なんだ』
大翔君が、泣いているような気がした。
『教師たちは何もしてくれなくて、兄貴もみるみるうちに元気がなくなって...見てられなかった。
兄貴があの人の側に行けなかったその日...自らの命を絶った』
「...!」
はじめは大翔君が通っていたのだと思っていた。
けれどよくよく考えてみると、彼は1年生から通信制だと聞いたことがあった。
体調を崩して途中から通信制に転入した兄と、最初から通信制を選択したらしい弟。
そして、ほとんどの人間が知らないはずの『3年前の事件』。
何故そうしたのか深く訊けずにいたけれど、全てのことが紐解けたような気がした。
(...まさか)
もしそうなら、事は思った以上に深刻だ。
「3年前の事件の被害者が、優翔と大翔君のお友だち...?」
『...別の学校だったけど、同じようにぼろぼろのノートを持ってたんだ。声をかけたのは僕からだった。
彼の家は母子家庭で、母親ともあまり顔を合わせることがなかったみたい。
僕は僕で嫌がらせに耐えてる最中だった。...だからすごく気が合ったんだ』
「優翔...」
『僕は体調を崩して、彼のところに行けなかった。...そして事件がおこったんだ』
泣いている大翔君の背中をさすりながら、優翔は哀しそうに微笑んだ。
『僕は自分のせいだと思ってた。でもその考えはお葬式の日に捨てた。
というより、捨てさせてくれたんだ』
「どういうこと?」
『彼のお母さんが、「あなたたちが背負う必要はない。でも、この子が生きていた事実だけは忘れないで」って...そう言ってくれたんだ』
優翔は今にも泣き出しそうな声で最後まで話し続けた。
『だから僕は、生徒たちを見捨てない場所を作れる人になりたいって...そう思ったんだ』
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