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泣かないver.
緊張する瞬間
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「それ、洗濯した方がよさそうだな」
駅から少し歩いた場所にある大翔の家にお邪魔させてもらった瞬間、ぽつりとそう呟いたのが聞こえた。
「でも私、替えの洋服なんて持ってない...」
「それは多分大丈夫だ。でも、その、下着は...」
「下着なら持ってるよ。体育で汗をかいたときの為に入れてあるから」
「それじゃあついでに体育の時着てた服もこれから洗濯した方がいいな」
大翔はいつもどおりの様子で、私はもっと安心した。
けれど、お風呂も洗濯もお世話になってしまうのは申し訳ない。
「もしも申し訳ないとか思ってるなら、ついでに夕飯も食べて行け。
お母さん、帰りが遅いんだろ?夜は送っていくから」
「あ、ありがとう...」
全部見抜かれているのが少し恥ずかしくて、ついまじまじと顔を見てしまう。
「風呂が沸いた。風邪引くといけないから、先に入ってこい」
「それだと大翔が、」
「俺は大丈夫だから」
その表情を見て、私は安心してバスルームへと向かう。
(よかった、はりつけたような笑顔じゃなかった...)
心からのものなら、きっとさっきよりは元気になっているはずだ。
「お風呂も洗濯機もありがとう」
「いや、別に礼を言われるようなことじゃ...!」
着替えだと渡されていた大翔のTシャツはぶかぶかで、ワンピースみたいになってしまった。
それだけ着るのはどうしても恥ずかしくて、たまたま持っていたレギンスをはく。
大翔はキッチンで食材を持ったまま固まってしまった。
「あの、大翔...?」
「...い」
「え?」
「可愛い、って言ったんだよ」
大翔は顔を真っ赤にしていて、私にもだんだん熱がうつってきたようだ。
「か、乾燥機も好きに使ってくれればいいから!」
ぱたぱたとバスルームに消えていく背中を見つめながら、その姿さえも愛しく感じる。
洋服を乾燥機にかけて作りかけになっているご飯を完成させながら、どんどん気分がよくなっていく。
そのとき、がくっと膝から力が抜けた。
(考えすぎたからかな?ちょっと疲れたみたい...)
少しだけ休ませてもらおう。
そのつもりで、ソファーにゆっくり座らせてもらうことにした。
「...ん、くお...」
誰かが呼ぶ声がする。
「久遠...!」
「ん、大翔...?」
自分でも気づかないうちに寝てしまっていたみたいだ。
「ごめん、私...」
「バスは人が多かったし、俺が色々話したから疲れてるんだろ?
倒れたのかと思ってたけど、疲れてるだけならゆっくり休め。あと、夕飯ありがとう」
「私もご飯食べたい...」
「もう平気なのか?」
頷いてみせると、大翔は少しほっとしたような表情をする。
それからふたりでご飯を食べて、帰りはバイクで送ってくれた。
「また夜、電話するから」
「うん。ありがとう」
「それじゃあ、また後で」
「うん。またね」
今日もお母さんは仕事で帰ってこない。
...もう少しだけでも一緒にいたいと話しても、困らせなかっただろうか。
(そうだ、チョコレートを買ってこないと)
感謝を伝えるなら、その日がきっと1番いい気がする。
何を作ろうか悩みつつ、疲れていたのもあってそのまま寝てしまった。
...大翔に借りたTシャツにレギンス姿のまま。
駅から少し歩いた場所にある大翔の家にお邪魔させてもらった瞬間、ぽつりとそう呟いたのが聞こえた。
「でも私、替えの洋服なんて持ってない...」
「それは多分大丈夫だ。でも、その、下着は...」
「下着なら持ってるよ。体育で汗をかいたときの為に入れてあるから」
「それじゃあついでに体育の時着てた服もこれから洗濯した方がいいな」
大翔はいつもどおりの様子で、私はもっと安心した。
けれど、お風呂も洗濯もお世話になってしまうのは申し訳ない。
「もしも申し訳ないとか思ってるなら、ついでに夕飯も食べて行け。
お母さん、帰りが遅いんだろ?夜は送っていくから」
「あ、ありがとう...」
全部見抜かれているのが少し恥ずかしくて、ついまじまじと顔を見てしまう。
「風呂が沸いた。風邪引くといけないから、先に入ってこい」
「それだと大翔が、」
「俺は大丈夫だから」
その表情を見て、私は安心してバスルームへと向かう。
(よかった、はりつけたような笑顔じゃなかった...)
心からのものなら、きっとさっきよりは元気になっているはずだ。
「お風呂も洗濯機もありがとう」
「いや、別に礼を言われるようなことじゃ...!」
着替えだと渡されていた大翔のTシャツはぶかぶかで、ワンピースみたいになってしまった。
それだけ着るのはどうしても恥ずかしくて、たまたま持っていたレギンスをはく。
大翔はキッチンで食材を持ったまま固まってしまった。
「あの、大翔...?」
「...い」
「え?」
「可愛い、って言ったんだよ」
大翔は顔を真っ赤にしていて、私にもだんだん熱がうつってきたようだ。
「か、乾燥機も好きに使ってくれればいいから!」
ぱたぱたとバスルームに消えていく背中を見つめながら、その姿さえも愛しく感じる。
洋服を乾燥機にかけて作りかけになっているご飯を完成させながら、どんどん気分がよくなっていく。
そのとき、がくっと膝から力が抜けた。
(考えすぎたからかな?ちょっと疲れたみたい...)
少しだけ休ませてもらおう。
そのつもりで、ソファーにゆっくり座らせてもらうことにした。
「...ん、くお...」
誰かが呼ぶ声がする。
「久遠...!」
「ん、大翔...?」
自分でも気づかないうちに寝てしまっていたみたいだ。
「ごめん、私...」
「バスは人が多かったし、俺が色々話したから疲れてるんだろ?
倒れたのかと思ってたけど、疲れてるだけならゆっくり休め。あと、夕飯ありがとう」
「私もご飯食べたい...」
「もう平気なのか?」
頷いてみせると、大翔は少しほっとしたような表情をする。
それからふたりでご飯を食べて、帰りはバイクで送ってくれた。
「また夜、電話するから」
「うん。ありがとう」
「それじゃあ、また後で」
「うん。またね」
今日もお母さんは仕事で帰ってこない。
...もう少しだけでも一緒にいたいと話しても、困らせなかっただろうか。
(そうだ、チョコレートを買ってこないと)
感謝を伝えるなら、その日がきっと1番いい気がする。
何を作ろうか悩みつつ、疲れていたのもあってそのまま寝てしまった。
...大翔に借りたTシャツにレギンス姿のまま。
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