泣けない、泣かない。

黒蝶

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泣かないver.

彼シャツ状態 大翔side

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それから週末、久遠が時々泊まりにくるようになった。
こちらに来てもらってばかりで申し訳ないような気もするが、こうして会いにきてくれるのは嬉しい。
「お母さん、最近夜勤が多いみたいだけど大丈夫かな?」
「いい娘が温かいご飯作って待ってるんだから、きっと大丈夫だろ。それより...」
「ん?」
「それ、いつまで着るつもりなんだ?」
だぼっとしているその服は、いつかの雨の日に貸したものだ。
それをそのまま寝間着として使うことは問題ないが、俺には少し刺激が強すぎる。
「...駄目?大翔が近くにいてくれるような気がして寂しくないから、勝手に使わせてもらってるんだけど...」
返すのはいつになってもいいか...そう訊かれたとき、俺は特別急がないと答えてしまった。
それがそんなに可愛らしい理由なら、尚更返してくれとは言えない。
「...ひとりで家にいるのは、辛いか?」
「少し寂しいなって思うときもあるよ。だから、その...」
「別に返してくれなんて言わないから、好きなだけ着ろ。
その服、そんなに着てなかったし...ちゃんと着てもらえた方が服も嬉しいだろ」
「ありがとう」
久遠の笑顔は相変わらず眩しくて、だんだん頬に熱が集まるのを感じる。
ただ、やはり俺の服を着ているのだと思うと落ち着かない。
「大翔、今日は私がご飯を作ってもいい?」
「そうしてもらえるのはありがたいけど、ふたりでやった方が早くないか?」
「そうなんだけど、えっと...」
...何か事情がありそうだ。
「それなら頼んでもいいか?」
「うん!」
ふわっとシャンプーの香りがして思わず抱き寄せたくなってしまうが、そうすればきっと邪魔になる。
もう少し我慢して、今はレポートを仕上げることにしよう...そんなことを考えながら、鞄の中に手を突っこむ。
指先が何か固いものに触れて引っ張り出してみると、それは小さめのファイルだった。
その中には、2枚のチケット。
「...久遠」
「どうしたの?」
「悪い、後でいいからちょっと話をしたい」
「...?うん、分かった」
火を使っているのを見て話を止める。
もし火傷でもしたら大変だ。
それに、誘うまでには多少の勇気が必要になる。
「ご飯、できたよ」
「悪い。全部任せっきりになって...」
「私がやりたかったことだからいいの。それより、話って何?」
「...食べた後でもいいか?」
「勿論。それじゃあいただきます」
兄貴や久遠...人に作ってもらったご飯ばかり食べさせてもらっているような気がして、何だか申し訳なくなってくる。
「どうかしたの?」
「いや、なんでもない。...うん、すごく美味しい」
「よかった...。こうやって自分が作ったものを誰かと一緒に食べてもらうの、久しぶりだからすごく嬉しい」
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