君と30日のまた明日

黒蝶

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1日目

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「森川さん」
私は今日もそんな看護師さんの声で目が覚める。
朝はすっきり起きられる方ではあるけど、いつも早起きしてるわけじゃない。
それでも、規則だけは守らないといけないのだ。
「おはようございます」
「おはようございます…」
「ご飯食べたら血圧と体温測ろうか」
「はい」
今日の看護師さんとはあんまり仲良しじゃないから、特に話すこともなかった。
この前同じ部屋だった子が見つけた抜け道…そこから屋上へ出られるらしい。
あんまり外に出られないから、どんな景色が見られるのか楽しみだ。
取り敢えず服だけは着替えてそのまま出てみる。
誰もいないと思っていたのに、誰かの歌声が聞こえた。
「──♪」
その歌声は悲しくて、聞いているだけで胸が締めつけられる。
歌詞があるわけじゃない分沢山の気持ちがこめられている気がして、つい聞き入ってしまう。
最後まで聞き終わったところで無意識に拍手していた。
「え…」
「すごい。何の曲かは分からないけど、とにかく感動しました!」
「…どうしてここに人がいるの?」
「今日はたまたま」
「…そう」
人影に近づくと、その人の手には包帯が巻かれていた。
なんだか痛そうだけど、どこまでつっこんでいいのか分からない。
「僕がここにいたこと、秘密にしてくれる?」
「勿論です。その代わり、また聞きに来てもいいですか?」
「僕の歌なんてつまらない。もっといい曲が沢山あると思うけど…」
「私、あんまり歌を聞いたことがないんです」
「それなら、これ使って」
「え?いいんですか?大事なものなんじゃ、」
「いいんだ。だって僕は…いや、なんでもない」
立ち去ろうとする男性を急いで追いかけて手を握る。
「いきなり何して、」
「名前!教えてください」
「穂村。穂村奏多」
「森川彩です。また明日、ここで待ってますね」
「……来ないかもしれない」
「歌を聞かせてくれるって言ったじゃないですか」
「それもそうか。…約束は大事だから、また来る」
「また明日お待ちしています。奏多さん」
奏多さんは無言で立ち去ってしまった。
名前で呼んでしまったのがまずかったのか、初対面なのに馴れ馴れしかったのか。
人との距離をどれくらいにしたらいいのかなんて忘れた。
「…そろそろ戻らないと」
奏多さんが来た道とは別の場所から病室へ戻る。
空は今にも泣き出しそうな茜色に染まっていた。

【今日はよく知らない人が話しかけてきた。
入院しているのか、或いは景色を見に来たのか。
どのみち、素敵だなんて言われるほど僕の歌は綺麗じゃない。
…だけど、約束は守らないといけない。あと29日、頑張らないといけないから】
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