君と30日のまた明日

黒蝶

文字の大きさ
3 / 35

2日目

しおりを挟む
「おはようございます」
「……」
どうやらこの人たちには僕の姿が見えていないらしい。
「でさ、そいつの話が長くて…」
「ねえ、先輩と話してきた?あたしは…」
「新しくできたスーパー、品揃えいいらしいぞ。帰りに行ってみよう」
僕にとって沢山の音は辛く苦しい。
だから今日もこうして世界と距離を置く。
ヘッドホンをつけている間とあの場所にいる間だけは、ちゃんと息ができる。
授業中だけは外すことにしているが、それ以外は休み時間でもつける癖がついてしまった。
「起立、礼」
その声を聞いてすぐヘッドホンをつける。
それからすぐ教室を抜け出し、いつものように病院へ向かう。
決して毎日行っているわけではなかったその場所が、今の僕にとって唯一の心の支えになっている。
そういえば、昨日は不思議な女性に声をかけられた。
また明日と言われてしまえば行かざるを得ない。
……約束は守る為にあるものだから。
「あ、奏多さん!こんにちは」
「本当に今日も来たんだ」
まさか現れるとは思っていなかった。
大半の人はお世辞で物を言うのに、彼女はそういうわけではなかったらしい。
「今日も歌を聞かせてもらえるんですよね?」
「そういうつもりじゃなかったんだけど」
「困ります。私はあなたの歌のファンになってしまいましたので」
何故そんなことを屈託のない笑顔で言えるんだろう。
裏表がないいい人そうなのに、何故この場所へやってくるのか疑問だ。
「森川さんだっけ。僕なんかよりずっとすごい人がいるのに、どうして僕なの?」
「すごく綺麗だからです。だけど少し寂しそうで、悲しそうにも聞こえます」
彼女は僕の歌をそんなふうに受け取ってくれたのか。
真っ直ぐな目で言われてしまっては、今日は気分じゃないなどと理由をつけて断ることはできない。
「好きな歌は?」
「昨日いただいたこれで聞いたものがいいです。3曲目のものをお願いしてもいいですか?」
古いプレイヤーを差し出されたが、どの順番に入っていたかはもう覚えている。
「……♪、♪♪──」
彼女はただ黙って最後まで聞いてくれた。
「今日はここまで」
「素敵です!…いけない、もう行かないと。明日もお待ちしています」
「え、ちょっと…」
そこまで話したところで、彼女の姿はもう消えていた。
あと28日頑張って生きられるように、とうとう幻でも見えはじめたのだろうか。
まだ日差しが痛いくらいさしているなか、僕はその場に独りいつもどおりに過ごした。

【今日も奏多さんが来てくれました。
検査の時間が近くて昨日より早めに出てきてしまったけれど、失礼にならなかったでしょうか?
また明日と一方的に言ってしまったような気がするけど、また歌を聞かせてもらえるかな。…聞きたいな】
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Husband's secret (夫の秘密)

設楽理沙
ライト文芸
果たして・・ 秘密などあったのだろうか! むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ  10秒~30秒?  何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。 ❦ イラストはAI生成画像 自作

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

処理中です...